規制と補助金の縛りでかんじがらめ
保育園の施設要件はとても厳しい。需要が大きい3歳未満の子供を預かる際は、給食の自園調理がほぼ必須となっている。そのため、保育スペースを潰して台所を作らなければならない。土地が余っている地方の保育所なら負担は少ないが、元々賃料が高い都心の保育所にはとても酷な要件だ。
例えば、都心のビルの空きスペースを活用して、企業主導型保育所を開設することはほぼ不可能である。設置要件を満たそうとしたら、基本的に1階以外に作るのは非常に難しい。これは「2方向の避難路を確保しなければならない」という要件のせいである。また、採光の要件も厳しく、「壁面の20%を窓にしないといけない」。主にこの2つの要件のせいで、都心のビルの空中階を活用した保育所は補助金の対象外となる。
賃料にも補助金は出るが、上限が決まっていて、都心のビル1階の賃料はとてもカバーしきれない。その分を利用料に転嫁できるかというと、ダメなのだ。補助金を受ける条件として、利用料の基準額が決まっているからだ。
日本では公立、私立関係なく、規制と補助金によって事実上の「国営保育所」しか営業ができないようになっている。保育士の給料が安くて、人が集まらない理由もこれに起因する。保育所の給料にも補助金上の目安が存在する。東京でも月額で手取り20万円程度、地方では手取りで13万円程度である。優秀な保育士を高く雇いたいと思っても、補助金をもらう限り、あきらめざるを得ない。
では、なぜ政府が保育所の供給をコントロールする必要があるのか? その理由は保育という事業の特殊性にかんがみ、サービスの質を一定以上に保つためだそうだ。そのため多額の補助金を受ける認可保育所はごく一部の者にしか開業が許されなかった。しかし、待機児童問題がクローズアップされたため、政府はこのスタンスを変えないまま、保育園の定員を増やす施策を実施した。だから、認定こども園や企業主導型保育所は、補助金と引き換えに、一定の条件=規制を満たす必要があるのだ。
いったんもらってしまうと、もう補助金なしの経営には戻れない。「来年はどうしたら補助金がもらえるのか?」が経営の関心事になって、市場の保育ニーズへの対応は二の次になる。