「運営交付金」が減るなか、自力で稼ぐ
少し引いた視点で考えれば、大学の経営は厳しさを増す。少子化による受験者総数の減だけでない。国立大学の場合、国からの助成金である「国立大学運営交付金」が年に1%ずつ減ってきた。東洋経済新報社の調査で総資産が多い「事業資産ランキング」6位の筑波大も厳しさは変わらない。2016年度の同大への運営交付金は約409億円で、経常収益(一般企業の売上高に相当)約944億円の4割強を占める。事業活動は単年度赤字になる年もある。
もし収入減が続けば、研究施設や優秀な人材確保など教育環境整備にも影響が出る。2015年には大学の機関紙「筑波大学新聞」に、永田恭介学長が「このままのペースで減少すると、7年後には教育・研究資金がなくなる」と発言。学内外で危機感を訴え、改革を促してきた。
営利を目的としない国立大学とはいえ、次世代の大学経営に向けた「内部留保」は欠かせない。世間が思う“人気大学”にあぐらをかいてはいられないのだ。
今回、取材に応じてくれた事業開発推進室は、まさに「稼ぐ事業」を担う部署だ。他大学では当たり前の「大学生協」がないのを逆手にとり、各企業との連携も推進。人気アパレルのアンダーアーマー、紳士服メーカーの青山商事やAOKIなど大手4社とも取引を行い、割引衣料を販売する。事業開発推進担当の副理事・大森勝氏は、財務活動計画担当も兼務するが、もともと野村證券出身。そうしたビジネス現場での経験も踏まえて担当業務を担う。
カフェは「しゃべり場」の象徴
900億円超の大学の収入全体では、キャンパス内のカフェやスーパーからの収入(施設使用料や売り上げの一部)は大きな金額ではない。見逃せないのはそれ以外の効果だ。
「最先端の店があるのは、受験生へのアピールとして欠かせませんし、キャンパス内の施設を充実させることで、大学のグローバル訴求にもつながります」(大森氏)
日本のカフェ文化を研究する筆者は、「カフェ」に対する意識の変化も感じてきた。大学や研究機関のシンポジウムのように飲食を提供しない場でも「××カフェ」とつけるケースが目立つのだ。今やカフェは「しゃべり場の象徴」にもなっている。
「大学が持つアセット(資産・資源)を分類すると、土地や建物、施設や設備といったハード面と、長年の研究成果や学生や教員の質などのソフト面に分かれます。それを組み合わせたり、外部との交流によって進化させたりして磨いていきたい。今回の店はそのための『交流拠点』になるのです」(大森氏)
10月1日の開業は、人気店の誘致という意味ではゴールだが、大学の生き残り策の一環としてはスタートだ。「まずはコーヒーを飲みながら」取り組みを考えるのだろう。
経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。