あるいは、大雪や台風に見舞われたとしよう。ファックスを廃してパソコンを導入して以降、自宅にいても仕事は支障なくできるようになった。店を開けたところでお客さまもやって来ない。電車もバスも運行ストップしている。普通に考えれば、店は臨時休業という判断になる。私もそう推奨している。スタッフは家で仕事をしてもいいし、たまっている有給を消化してもいいではないか。

それなのに、「店は開けてナンボ」とばかりに出勤してくるスタッフがいるのだ。こんな日に店に来るとは。繰り返すが、待っていてもお客さまはやって来ないのだ。その無人の店に雪や台風のなかわざわざ出勤するために、スタッフがどれだけのリスクを冒すことになるのか。

そして店に着いたら、今度は雪かきをしようとする。これもムダな努力である。「雪が降っている間は放っておけ。やんでからかいてもらえるか?」と頼む。お客さまから「おたくのお店は、雪かきもしてないの?」というご批判をいただいたこともあるが、「スタッフが大変なので、今日はしません」とお返事した。ごく合理的な判断だと思う。

社長からの「一生のお願い」

「本当に、店を閉めていいんですか?」という声には「なんで開けるんですか?」と問い返すだけで、本来いいはずだ。もちろん目の前に困っているお客さまがいたら、そのご期待にはなんとしても応えるべきだし、そうすれば売上もあがる。だが、そのお客さますらいない、台風や大雪の日に危険をおかして店に出るのはバカバカしい。まるで意味不明だ。

これだけいっても、現実にはなかなか店を閉められない。「今日、大雪なんで店閉めますね」と現場から報告があがるようになったのは、この1~2年でようやく、なのである。今年の冬には、私が「一生のお願いだから休んでくれ」と頼まなくて済むことを祈る。

星崎尚彦(ほしざき・なおひこ)
ビジョナリーホールディングス代表取締役社長
1966年生まれ。早稲田大学法学部卒業後、三井物産入社。スイスIMDビジネススクールでMBA取得。三井物産退社後、スイス「フラー・ジャコー」、イタリア「ブルーノマリ」、米国「バートン」の日本法人トップを務める。2013年6月、メガネスーパーの再建を任され、2016年に同社9年ぶりの黒字化を果たす。2017年11月より現職。
(写真=iStock.com)
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