倒産寸前の会社を再生させるには、なにから手をつければいいのか。メガネスーパーをV字回復させた星崎直彦社長は、「とにかく社員の話を聞くことが重要だ」と説く。就任直後から「『一生のお願い』はないか?」とスタッフに尋ねてまわり、そこで出たアイデアを実現させてきた。なぜそんな手が有効なのか――。

※本稿は、星崎尚彦『0秒経営 組織の機動力を限界まで高める「超高速PDCA」の回し方』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

社長は口より先に「耳」を開け

私は外資系アパレルを中心に複数の会社の経営者を務めたが、メガネスーパーにやってきたときにはメガネをかけたことすらなく、メガネについて立派な門外漢だった。だから、長年続く赤字から会社を復活させるというミッションを掲げて入社したものの、最初は現場に飛び込んで話を聞くことしかできなかった。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Milatas)

会社の歴史も店舗のこともメガネのことも、全部スタッフが教えてくれた。毎日のミーティングや飲み会で、さんざん聞いた。会社や店のこと以外にも、「誰と誰が付き合っていた」をはじめとする楽しいがどうでもいい話まで、全部聞いた。それらはすべて、私なりのデータになった。

よくいわれることだが、話すよりも聞くことのほうが、よほど大事だ。経営者にとっても、それは真実である。

最終的に意思決定を下すのは私でも、その前にデータ収集を済ませておかなければ判断軸を持てないし、何も決められない。業界のことや会社のことをある程度理解していなくては、「今はこれをやろう」と自分の意見を強く押すこともできない。

「言いたいこと言ってくれ!」ではしゃべらない

だから、トップとしての判断軸を持ったり決断したりするための情報収集が必須になるわけだが、いきなり外からやってきた見ず知らずの社長あるいはリーダーが、スタッフやメンバーに対して「さあ、言いたいことを全部言ってくれ!」などと言ったところで、社員の側からすれば普通は話しづらい。「そうですか」なんて言って、重要な情報をペラペラ話してくれる人はめったにいない。それでもひたすら、聞くのである。

たとえば、ある社員が「以前試して、うまくいったアイデア」を話してくれたのは、前オーナーの悪口をウダウダ聞いていたときだったと思う。流れでその話が出てきて、聞いたとたん「それ、もう一度やろう!」と突然私が言うと「え、いいんですか!?」と意外そうな反応が返ってきた。このとき、もし私が「何かアイデアない?」とあらたまって聞き出そうとしていたら、その話は出てこなかったと思う。

店のスタッフに「『一生のお願い』ってない?」という質問もよくした。「駐車場を2時間無料にしていいですか……」というささやかなお願いを述べたスタッフには、「2時間と限定するのが感じ悪いから、無制限でいい」といった。驚く相手に「そんなものが一生のお願いなのか?」と突っ込むと、それでまた話が弾んだ。