「可能であればTシャツを作って『セール』と書いていいですか」といういじらしいお願いもあった。現在は当社社員の全員が知っていることだが、私は「可能であれば」という言葉は大嫌いだ。「すぐにやれ」といったらTシャツの作り方がわからないというから、私がTシャツを買って、手作業でプリントして、店に配ってしまった。

委縮している社員から本音を聞こうと思ったら、社長が目を見て一生のお願いを聞くくらいでないと無理だ。その代わり、話してくれた内容に価値があれば、どんなにささいなことでも、面倒なことでも、必ず実行すること。これは鉄則だ。

すぐに組織を変えたがる経営者の愚

門外漢の業界に飛び込めば、業界固有の知見が問われる場面は当然あるが、そんなこんなで半年も熱心なデータ収集に努めていれば、どこに問題を抱えているか、だいたいわかるようになる。データが一定以上に蓄積すると、「もうわかった、この会社はいける」と結論を出せる。

星崎尚彦『0秒経営 組織の機動力を限界まで高める「超高速PDCA」の回し方』(KADOKAWA)

優れた経営者とは、情報の点と点がつながり、面になって、絵が見えてくるまで「待てる」人ではないだろうか。いかに即断即決の0秒経営を掲げていようと、中長期的に会社を成長させるためには、従業員との信頼関係の構築が先決。それだけは、付け焼き刃では不可能だ。

だからまず、データ収集に徹する。社長だろうが、すぐに組織をいじってはいけない。急がずじっくりと、この会社でどのボタンを押せばどんな作用が表れるのか、誰がキーパーソンなのか、誰が邪魔をしているのか、見極める時間として使う。未熟な経営者やリーダーほど、すぐ自分の色を出して組織を変えたがるものだが、それでは、社員もついてこない。

現状把握だけではない。人に対する評価などは、とりわけ拙速のリスクが高い。たとえば、社長や責任者になってすぐ近寄ってきた人、遅れて近寄ってきた人がいるとしよう。前者のほうが、どうしてもかわいいと感じてしまう。だが、本当に正しい意見を述べているのはどちらか。会社のためを思って発言しているのはどちらか。それを判断できるほど、会社のことを理解するには、やはり数カ月はいるだろう。