各国政府が通貨切り下げを実施したらどうなるか

その例として典型的に挙げられるものに通貨切り下げ競争がある。世界同時不況のなかで、各国の政府が輸出増大を目的として自国通貨の切り下げを行うと、他国の生産物から自国の生産物へ需要をシフトさせることで、輸出が増大するかもしれない。

しかし、他国の生産物に対する需要が縮小することから、そちらの政府も対抗して、通貨を切り下げる可能性がある。もし他国の政府も通貨を切り下げれば、さきほどの自国の生産物に対する需要は再び縮小してしまう。元の木阿弥となるだけである。

しかも、世界中の国々の政府が通貨切り下げ政策を実施すると、各国の生産物の相対価格は結局、期待されるように低下しないどころか、通貨切り下げ競争に加わった国の通貨の価値が、生産物に対して減少することになる。すなわち、1万円札や100ドル札で購入することができる生産物の数量が減少することになる。このことは、見方を変えると、生産物の価格が全般的に上昇することを意味する。すなわち、インフレーションが発生することになる。

このように、自国だけ輸出を増大させようとして、通貨切り下げ競争を行った結果、結局は輸出を増大させることができず、それに加わった国の通貨の価値が減少するだけということになる。このようにして、通貨切り下げ競争によって通貨価値の不安定性が高まることになる。このように、期待した結果を得ることができず、かつ、副産物としてのインフレーションおよび通貨価値の不安定化を引き起こす通貨切り下げ競争を回避するために、国際政策協調が行われる必要がある。

家族のなかで子供たちが成長していくのと同様に、世界経済において発展途上国が新興国として経済成長を遂げていくにつれて、先進国に対して新興国のプレゼンスが相対的に高まっていく。グローバリゼーションによって、各国の国際貿易取引、国際資本取引、国際金融取引に対する規制緩和が進むなか、新興国の経済成長とともに、それらの取引が拡大していくことになる。

当然のこととして、そのようなグローバリゼーションのなかで、国際経済問題も地球規模(グローバル)の問題となる。かつて80年代においては、日本とアメリカの2国間の経常収支不均衡問題が日米摩擦問題に発展した。