「大人が謝ることの大きさをわかっているよね?」

中学3年生になって担任は変わったが、不登校は続いた。別居していた父親がAさんの深刻な状態を聞いて、学校側に元担任の謝罪を求めると、5月下旬に謝罪の場が設定された。

元担任が謝罪のために立ち上がったところ、同席していた学年主任が謝罪を制するかのようにしてこう述べた。

「Aくん、大人がこうやって謝ることの大きさをわかっているよね?」

Aさんの父親は「大人が謝るんだからこの件はもう終わりにするという意味に聞こえるが、子どもの心を傷つけた側が言うことではない」と問いただした。学年主任は「お父さんは頭がいいから」などといいながら、渋々、元担任による謝罪を認めたという。

世田谷学園の山本慈訓校長。世田谷学園のウェブサイトより

「このまま不登校なら、別の高校に進学してはどうか」

このやりとり以降、Aさんの症状はさらに悪化した。腹痛に加えて、不眠などの症状も出るようになり、8月には適応障害と診断され、投薬治療を受けるようになった。

登校できないため、学習の遅れを取り戻そうと、Aさんは10月から個別学習指導塾に通い始めた。ところが約1カ月後、今度は担任からこう言われた。

「このまま不登校が続くようなら、中高一貫ではあるが高校部に進学しても卒業はおぼつかない。別の高校に進学したらどうか」

不登校の原因を作ったのは、学校側なのに、どうして転校勧奨を受けなくてはいけないのか。Aさんが転校を拒むと、高校には進学できたが、学校側への不信は強まった。

生徒は「非24時間睡眠覚醒症候群」を罹患

高校1年生になり、Aさんは登校しようと努力する。しかし、症状はおさまらず、登校できた日はわずかだった。新たに「非24時間睡眠覚醒症候群」と診断され、睡眠障害の治療も受けていた。

冬に学校側は父親を呼び出して、「このままだと出席日数が足りなくて留年してしまう。それが嫌なら転校するという選択肢もある」と通告した。通告してきたのは、前の年に元担任の謝罪を制そうとした学年主任だった。