「私の体を使って働いて得たものは私の自由」か

ミルの自由論の他に有名なのは、同じイギリスの思想家、ジョン・ロックの自由論です。彼は二つの自由論を説きました。

『答えのない世界に立ち向かう哲学講座――AI・バイオサイエンス・資本主義の未来』(岡本裕一朗著・早川書房刊)

一つめは身体自由論。私の身体は私のものであって、それをどうしようと私の自由であるという考えです。

二つめは労働自由論といい、私が労働によって得たものは私のものであり、それをどうしようと私の自由であるというものです。「自分で働いたお金をどのように使っても私の自由」という感覚は、みなさんお持ちではないでしょうか。

身体自由論と労働自由論を合わせると、「私の身体を使って働いて得たものは私の自由」となります。これは正しいと思いますか、間違っていると思いますか?

美容整形の自由論

たとえば美容整形を考えてみましょう。最近では日本でもかなり受け入れられてきました。「本人が望むのであれば反対する理由はない」と考えるのであれば、自己決定原則だからミルの自由論です。「自分の身体をどうしようとそれは本人の勝手」と考えるのはロックの自由論です。

あるいは、「美容整形で本人の心が明るくなるのならばやったらいい」という考え方もありえます。これは誰の考えでもないですが、ポジティブ思考というべきでしょうか(笑)。

「人は見た目が10割」という考え方もあります。いうなれば、ニーチェの考えです。ニーチェは弱者のルサンチマン(逆恨み、嫉妬)を批判するのですが、「人間顔より心が大切」という世間の道徳は、「顔」で勝負できない弱者のルサンチマンに聞こえます。

ミル、ロック、ニーチェまで並べると、なかなか崩せそうにないですね。

ここで、次の問題を考えてみましょう。