普段は軽く明るく話す島田氏。しかし被災後、まだソニー仙台内にワンテーブルの前進となる会社事務所を仮置きしていた時から知っている私としては、しっかりと構想を立て、着実に事業を大きく育ててきたその姿勢に他にはない覚悟を感じます。

被災地での経験を活かして「備蓄用ゼリー」開発へ

ワンテーブルは次なる事業として「備蓄用ゼリー」の開発、販売に乗り出しました。

被災した際に、避難所で配られた非常用食品の多くが、高齢者や子供が食べられない乾燥した固いビスケットなどであったりした経験から、「もっと幅広い人が食べられるものを備蓄しないのか」と考えました。そこで出たアイデアが、コンビニなどでも普段売られている栄養バランスが考慮された食品ゼリーでした。

しかし、食品ゼリーは冷蔵保存が必要かつ保存期間が短く、従来の方法では備蓄には不向きなものとして扱われていました。そこで独自の保存用パックフィルムを凸版印刷などと共同で開発し、商品化を果たしました。今年8月にはJAXAと提携して「BOSAI SPACE FOOD PROJECT」というプロジェクトを立ち上げ、防災食だけでなく、宇宙食として活用する動きも始めています。

被災したというマイナスを、自らの視点でプラスに変える。ワンテーブルは何もない環境だからこそ自由な発想で産直施設を作りました。そして次に堤防の外にあるという唯一無二のホテルを作りました。今度は被災した経験を生かして日本、世界、そして宇宙まで視野に入れた問題解決に乗り出したというわけです。

ワンテーブルは小さな事業から地域を変え、そして社会全体を変えるための挑戦をしています。普通であれば、「そんなこと無理だろう」と言いたくなりますが、この数年の同社、そして島田氏の有言実行の姿を見れば、様々な壁を打ち破り、成し遂げてくれるのではないか、と期待するばかりです。

何より、地域にとっては彼らのような地元発企業が成長していくことそのものが、地域活性化の一番の原動力でもあるのです。

木下 斉(きのした・ひとし)
まちビジネス事業家
1982年生まれ。高校在学中の2000年に全国商店街合同出資会社の社長に就任。05年早稲田大学政治経済学部卒業後、一橋大学大学院商学研究科修士課程へ進学。07年より全国各地でまち会社へ投資、経営を行う。09年全国のまち会社による事業連携・政策立案組織である一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンスを設立、代表理事就任。著書に「地元がヤバい…と思ったら読む 凡人のための地域再生入門」(ダイヤモンド)、「福岡市が地方最強の都市になった理由」(PHP研究所)、「地方創生大全」(東洋経済新報社)、『稼ぐまちが地方を変える』(NHK出版新書)、『まちで闘う方法論』(学芸出版社)などがある。
(撮影=木下斉)
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