産業施設の跡地にマンションが建つと税収は赤字に

近年、首都圏では、企業が運営していた大規模な産業施設(工場や倉庫、事務所など)が移転・撤退し、跡地にマンションが建つケースが増えています。旧来の周辺住民からすれば、こうした産業施設がなくなれば車の出入りや騒音、悪臭などがなくなり、地域がより安全・安心になり、よいことのように思えるかもしれません。

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しかし冷静に考えると、地域の中でこうした産業施設から住居への土地利用転換が進むことは、地元住民にとっては必ずしもメリットばかりではないのです。

なぜなら工場などを立地する企業は、地元行政からすると、道路や上下水道の維持などの最低限のサービスを果たしておけば、強い要望も文句もいわず固定資産税などを払ってくれて「黒字」になるのに比べ、人間の住民には、世代により相応の保育・教育・福祉などのサービスを提供しなければならず、おカネがかかるからです。保育所や小中学校、福祉施設の建設・運営コストの増大は、新住民から納められる税金による増収を上回り、「赤字」となる場合が少なくないのです。

そう考えると、工場が多く立地する地域では、企業が払ってくれた税金のおかげで、地元の住民サービスに回すお金が増えているわけです。

工場の多いまちというのは環境が悪いという印象を持たれがちですが、1960年代の公害社会で苦い経験をしてきた日本は、近隣との緩衝帯の設置や環境汚染防止のための取組が進んでおり、工場に隣接する住宅地は環境が悪いという話はもはや風評被害であることがほとんどです(特に大企業であればなおさら)。それゆえ現実として、納税のみならず、従業員による飲食・購買等を通じて地元経済への多大なる貢献をしてくれている工場を迷惑施設だと考えるなんて、恩知らずにもほどがあると思えてきます。

大原 瞠(おおはら・みはる)
行政評論家
1974年生まれ。兵庫県出身。大学卒業後、学習塾講師や資格試験スクール講師を経て、行政評論家として活動。
(写真=iStock.com)
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