「住みたいまち」として高い人気を誇る東京の恵比寿エリア。実は1キロ圏に清掃工場が2つもある「ごみ工場集中地区」だ。しかし「ごみ工場があるから」といって避ける人はいない。行政評論家の大原瞠氏は「住民の多くは、迷惑施設の新設や移転に反対するが、恵比寿のようにすでに存在する施設は問題になっていない。迷惑施設の問題はほとんどが風評被害だろう」と指摘する――。

※本稿は、大原瞠『住みたいまちランキングの罠』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

近隣に清掃工場が2つある恵比寿エリア(撮影=大原瞠)

現代社会に必要不可欠な「迷惑施設」

まちの住みやすさというテーマで行政関係者と話をしていると、必ず出てくるキーワードに、「迷惑施設」というものがあります。文字通り、多くの人にとって迷惑で、近所にあってほしくないと感じる特性を持つため、新設や移転をしようとすると予定地の周辺住民から忌避・反対される施設のことです。

何をもって迷惑と感じるかという基準は人それぞれ異なりますが、具体的には廃棄物関係施設(可燃ごみを燃やす清掃工場、産業廃棄物保管・処分施設など)、産業関係施設(原子力施設、騒音や振動を出す事業所、有害物質を取り扱う工場など)、人の死に関係する施設(遺体安置所、葬祭場、火葬場、墓地など)あたりを迷惑施設と考えることについては、ほとんどの人に異議のないところでしょう。

ただ、右に挙げた施設はどれも現代社会には必要不可欠で、どこかには立地しなければならないものだけに、問題の根は深いといえます。

迷惑施設の開業、課題は環境汚染より風評被害

何年か前、いわゆる「町工場のまち」として知られた東京近郊のとあるエリアで、工場が撤退した跡地を別の業者が遺体安置所に転用しようとして、地元と揉めたケースがありました。紛争からもう2年以上経っていますが、結局遺体安置所は開業しました。

遺体安置所を作るためには、においや病原菌などによる周囲への悪影響が出ないように、温度管理などを十分に行って遺体の損傷・腐敗を防止することが必要になりますが、こうした点は十分な設備を整えれば(要するにお金さえかければ)解決できます。

問題は、周辺住民にとって、近くにそういう施設があると気持ち悪いとか怖いとか、はてはこのエリアの評判が落ちて不動産価値も落ちるから困る(進出はやめてもらいたい)、という話です。これは、客観的に明らかな環境汚染などとは異なり、人間の意識から生じるもので、それこそ風評被害といっても差し支えありません。