引っ越し先を選ぶとき、「住みたいまちランキング」を検討材料にしてはいないだろうか。その結果にはたくさんの「罠」が潜んでいる。そのひとつは「子供の医療費」。「小児医療費無料」をアピールする自治体は多く、ランキングも上がりやすいが、行政評論家の大原瞠氏は、「医療費負担で住むまちを決めてはいけない」という。その理由とは――。

※本稿は、大原瞠『住みたいまちランキングの罠』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

川の「こちら側」と「向こう側」で変わる小児医療費

東京23区に隣接する、ある市役所の窓口職員が、昔こんな愚痴をいっていました。再現してみます。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/anurakpong)

市民:うちの娘、この間○歳になったんですけど、次の小児医療費無料の保険証って送られてこないんでしょうか。

職員:うちの市では、小児医療費の自己負担分がゼロになる制度は○歳までとなっていますので……誕生日を迎えたら終わりになります。

市民:そうなんですか? ○歳のお子さんのいるママ友と話していると、医療費はかかってないって聞きますけど。

職員:そのお知り合いはどちらにお住まいでしょうか? この市ではないと思いますが。

市民:ええと、確か○○川の向こうなので、○○区だったかしら……。

子育て中の世帯の方はご存じのことと思いますが、現在、多くの市区町村では、一定年齢までの子どもの医療費(自己負担分)が無料になっています。

東京23区内には18歳まで「医療費無料」なエリアも

本来の医療費自己負担の国内統一ルールとしては、小学校入学前までが2割、それ以上は70歳未満まで3割なのですが、ここ十数年ほどの間に多くの市区町村で、本来なら患者側が窓口払いすべき自己負担分を市区町村が丸抱え(助成)するようになってきているのです(厳密にいうと、都道府県も市区町村あてに補助金を出すことで、その一部を負担しています)。

しかも、どの市区町村も「子育てしやすいまちNo.1」を目指すべく、各都道府県が定めている助成基準に上乗せするかたちで、対象年齢を何歳までにするかなどの競争を繰り広げてきました(都道府県の基準を超える部分については、都道府県は補助をしないので市区町村が全額を負担します)。