起業家はスティーブ・ジョブズよりビル・ゲイツになりたい

成功した起業家たちが「かくありたい」と語る、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏(写真=時事通信フォト)

「敗北エリア」を設定するということは、何を自分の軸とするか、どこで個性を出すか、ということにもつながると思う。

あるとき、日本で成功した起業家の人たちがそんな話しているのを聞いていたら、彼らが一様に「かくありたい」と言っていたのがビル・ゲイツだった。彼はスティーブ・ジョブズと同時代、同じPCの分野で起業し、一時はジョブズよりはるかに成功したかに見えたが、そう見えているうちにさっさと引退して社会の課題解決のヒーローとなった。

つまり、ゲイツはいちはやく起業家から慈善事業家に転換することで、ジョブズがアップルに返り咲いて大スターとなった後も、その影に隠れることはなかったのだ。もちろんゲイツの実際の動機がどこからくるものだったかはわからないが。

これまでの価値観から“脱洗脳”する

ゲイツほどではなくても一度何かの分野で成功をおさめた人が、新しいキャリアに転換するのはけっこう難しい。結果を残したアスリートであっても、セカンドキャリアは楽ではないし、会社でそれなりに出世した人の定年後も同じようなことがいえるだろう。本人は意識していなくても、活躍していたときの「残り香」のようなものがあると鼻につく。「むかしはすごかった自分」をうまく葬るにはどうしたらいいのか。

まずは、いまの自分を褒めてくれる人を探すことからだと思う。そういう人がいなければ、自分で自分を褒める。簡単なようだが、実はこれがすごく難しい。自分をいままでの価値観から脱洗脳することに等しいからだ。いままでの価値観とは別の尺度を見つけなければ、本気で褒めることはできない。場合によっては、いまの人間関係から距離をおいたり、情報を遮断したり、といったことも必要だろう。

「第一人者」とは、局所的なエリアを占領した人を呼ぶのだと私は思う。全体に散らばって少しずつ抑えている人は、第一人者とは呼ばれない。そして全体を監視しなければならない人は、ほとんどの時間を監視と管理に費やす。最近は敗北エリアをたくさん設定したので随分リソースが解放された。余ったリソースは仕事と、本と、息子に投下している。

為末 大(ためすえ・だい)
1978年広島県生まれ。2001年エドモントン世界選手権および2005年ヘルシンキ世界選手権において、男子400メートルハードルで銅メダルを勝ち取る。陸上トラック種目の世界大会で日本人として初のメダル獲得者。シドニー、アテネ、北京と3度のオリンピックに出場。男子400メートルハードルの日本記録保持者(2013年5月現在)。2003年、大阪ガスを退社し、プロに転向。2012年、日本陸上競技選手権大会を最後に25年間の現役生活から引退。現在は、スポーツに関する事業を請け負う株式会社侍を経営している。著書に『諦める力』『逃げる自由』(ともにプレジデント社)などがある。
(写真=時事通信フォト)
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