日本で民泊拡大の動きが見られなかったかと言えば決してそうではない。2018年春ごろにはAirbnbのサイトには6万件以上も掲載されていたとされ、むしろ民泊の存在感の拡大が問題となっていた。

問題視される理由の一つは旅館等との競合である。日本で旅行者に宿泊サービスを行うためには、原則、旅館業法による許可が必要である。旅館やホテル側からすれば、許可を得ずに類似のサービスを提供する民泊事業者は不平等な競争を強いる相手であり、経営上の脅威となり得る。違法事業者の増大として問題視していたのは事実であろう。

その他の問題点には、ゴミや騒音、共有スペースの無断利用といった周辺住民の被害がある。民泊と言ってもホームステイのようなタイプばかりではなく、家主不在でマンションの一室などを貸し出すタイプもあり、このタイプでは問題が生じた際の周辺住民への対応が不十分となる可能性がある。民泊は提供者、利用者、シェア事業者に利益があっても、周辺住民に不利益が及ぶようであれば問題である。

現状は届出ではなく、自治体の許可制

こうした民泊を巡っては、厚生労働省・観光庁の「『民泊サービス』のあり方に関する検討会」や、当時の規制改革会議等で検討がなされ、その結果、住宅宿泊事業法の施行(2018年6月15日)に至っている。実態先行で広がった民泊を旅館業法とは別の枠組みで取り込むかたちになったことから規制緩和とも取れるが、これまでのところホスト(提供者)にとっては高いハードルとなっている。

同法の下では、旅館やホテルが立地できない住居専用地域でも事業ができ、しかも許可ではなく届出で事業ができることになっている。しかし、年間180日を超えて住宅宿泊事業を行うことができないため、ビジネスとして捉えれば稼働率の上限規制はネックとなる。その上、法の規定で自治体の条例により制限できることになっているため、多くの自治体で住居専用地域では営業を週末のみとするなどの上乗せ規制が課されることとなった。

問題となるのは事業性だけではない。ホスト希望者が届出を行うには多く書類を整えた上で提出することが求められ、負担が大きい。制度設計段階においては原則インターネットの活用を想定していたはずの届出の方法に関しても、「Webのみで届出完結率0%(ホスト1600人にアンケート実施結果)」(※2)という惨憺たる状況にある。「現状は届出ではなく、自治体の許可制になっている」(※2)との指摘もあり、第35回規制改革推進会議(2018年6月26日)で大田議長は「これでは何のための民泊であったのか」と発言している。こうしたこともあってか、新制度による民泊の届出受理済件数は、8月31日時点で7028件にとどまっている。

(※2)Japan Hosts Community オーガナイザー「住宅宿泊事業の現状報告とお願い」(第35回規制改革推進会議(2018年6月26日)、資料1-1)