依然、認知度も低く、利用にも及び腰

シェアリングエコノミーが広まらない別の背景としては、認知度の低さが挙げられる。総務省の「平成30年版情報通信白書」の中で、「駐車場のシェアリング」、「ライドシェア」、「民泊サービス」、「個人の家事等の仕事・労働のシェアサービス」、「個人所有のモノのシェアサービス」の認知度について国際比較調査(※3)が記載されている。

この調査ではいずれも認知していない割合が日本で57.2%であり、アメリカの34.7%よりも割合が高い。また同調査のシェアリングサービスを知っている人の利用経験についても、上記5分野において利用経験がないとする割合が日本で81.1%と極めて高く、アメリカの38.7%と比べてかなりの格差となっている。過半数が知らない上に、知っていても大半が利用しないのであれば、普及が遅れるのは当然である。

日本人がシェアリングサービスに及び腰なのは、トラブルに巻き込まれたくないと心理もあろうが、消費者の要求水準の高さも関係しているとみられる。戦後、日本の企業は厳しい業法規制を受けてきたが、消費者側からすれば高品質のサービスを享受できた。企業に対する消費者の立場は強く、時にはクレーマーやモンスター化する消費者までいる。国内企業の提供するサービスに対し、消費者として常に要求水準を高く設定してきたと考えられる。

シェアリングエコノミーにおける提供者と利用者の立場は、企業と消費者のように固定されておらず、双方が入れ替わることもあり得る。長年にわたって純粋な「消費者」であった人ほど、「プロ」以外が提供するサービスには抵抗があるに違いない。

(※3)出典:総務省「ICTによるインクルージョンの実現に関する調査研究 報告書」(2018年3月)(請負先:フューチャー株式会社)

海外の情勢を見てからでは成長の機会を失う

シェアリングエコノミーについては、新旧の競合以外にも多くの課題が残されている。しかし、海外では課題を抱えつつも、新たなチャレンジをつぶさずにルール化し、支援する向きもある。米カリフォルニア州では、有償のライドシェアを既存のタクシーなどとは別のTNC(Transportation Network Company)としてルール化している。

日本国内でも民泊については新法によってルール化されたが、依然として「業法」による規制である。シェアリングエコノミーを業として厳しく規制すれば、「プロ」にならざるを得ず、参入者はおのずと限られてくる。民泊新法とは名ばかりで、規制緩和とのお題目とは裏腹に既存業者保護の内容になっている。

仮に日本社会がリスクを取りつつ試行錯誤することを望んでいないならば、海外で課題がなくなるまで待ち、その手法を取り入れるというのも一つの手段ではある。競合する既存事業者の売り上げ減少や近隣住民への迷惑といった負の面だけを捉えれば、こういった手段もあながち間違いとは言い難い。

しかし、リスクを取りつつ前進するということを怠ると、本来得られるはずのリターンも得られない。提供者の収入の機会、利用者の利便性の向上が得られないばかりか、シェア事業者もデータの蓄積とビッグデータを活用していくことも困難になる。日本がIT分野で国際競争力を高めようというのであれば、シェアリングエコノミーだけ例外とするわけにはいかないであろう。冒頭で述べたように、日本はシェアリングエコノミーで途上国であるからこそ、まず前進することが必要なのである。

市川拓也(いちかわ・たくや)
大和総研経済調査部 主任研究員
1967年生まれ、上智大学卒業、1992年大和総研入社、1995年海外駐在、1998年地域経済を担当。2012年~14年外務省出向の後、2015年地域経済担当。2018年現在、シェアリングエコノミー等国内外の経済全般を担当。
(写真=AFP/アフロ)
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