現場にしかない判断に必要なデータ

――杉江社長はデータを重視されることで知られています。そのデータは決して無味乾燥なものではなく、きっと人と密接な関係にあるものなのでしょう。

何か物事を判断する際に最も重要なのは、現場にある本当に生きたデータに基づくことです。経営戦略本部にいたとき、定休日の是非について議論を進めるなかで、定休日の看板を見てガッカリしてお帰りになるお客さまが少なからずいらっしゃることは、現場の声からもわかっていました。

しかし、定休日の是非を検証する具体的な数字がありませんでした。そこで食品部門のケーキ売り場のマネジャーを呼んで話を聞くと、バースデー用ホールケーキの販売個数が平日は約600台、土日祝日には約1000台にもなることがわかりました。つまりこの時点で、平日に定休日を設けていると、少なくとも600人のお客さまの不便につながっていると推測できたのです。

――そうしたデータを引き出すためにも、杉江社長は日頃の対話を重視しているのですね。

このような貴重なデータ収集の場面で必要なのは、自分が持っている生のデータをストレートにあげてくれる人材です。定休日を認めてきた上司の顔色を窺って、「廃止につながるようなマイナスのデータは仕舞っておこう」などと忖度する人材ではダメなのです。

私のデータ活用の目的は、自分の判断が間違っているかどうかを検証することです。新規事業の将来性や成功の可能性を示す際に、都合のよいデータ分析を切り貼りすることがありますが、それは誤ったデータ活用法といえます。なぜなら、いくらでも加工ができて、裏付けにはならないからです。私はよく「私のいうことの半分は間違っている」といっており、それを検証する生のデータをダイレクトにあげてくれる人材を重んじたいのです。

伊勢丹新宿本店に真の強みが存在

――一方で、ネット通販という強敵の猛攻にさらされています。

当社も電子商取引(EC)を強化しています。とはいえ、大手ネット通販と同じことをする気はありません。百貨店の強みを活かしたECを構築しないかぎり、厳しい競争には勝ち残れないと考えているからです。

では、何が当社の強みなのでしょう。まず、世界の一流ブランドの商品知識を豊富に持ったバイヤーや、日々の接客でお客さまのニーズを直接感じ取っている販売員が数多くいることです。彼ら彼女らの「リコメンデーション力」をネット上に反映していくことは、とても強力な武器になるはず。しかし、それだけではまだ力不足なのです。