老後資金のベースとなる公的年金。2018年4月、年金額のルールが改定されたことはご存じだろうか。
年金には2004年に導入された「マクロ経済スライド」というルールがある。これは、そのときの社会情勢に合わせて、年金の給付水準を調整する仕組みだ。年金額は、賃金や物価が上昇すると増えていくが、現役世代の人口の減少による保険料収入の減少や、平均余命の延びによる年金給付費の増加を考慮して、一定期間、年金額の伸びを調整する(賃金や物価が上昇するほどには増やさない)。財源の範囲内で長期的に運営するためだ。
具体的には、賃金や物価による年金額の伸びから、現役世代の人口の減少や平均余命の延び率を考慮した「スライド調整率」を差し引いて、その年の年金額を決める。
例えば物価が2%上昇しても、年金も2%増額するのではなく、1%の増額に留める。この場合、名目の額(実際に支給される額)は増えても実質的には価値は下がることになる。ただし、「年金受給者に配慮」して、名目上の金額が前年より下がることがないような措置にした。「実質的な価値が下がることはあっても、金額そのものは下がらなかった」ということだ。
しかし、この制度が導入されて以降、賃金や物価の下落が長く続いたことから、この制度はほとんど適用されなかった。このままでは、将来世代の給付水準の確保が困難となるため、18年4月から、新たにキャリーオーバーという方式がとられることになったのである。
具体的には、(1)景気拡大期には賃金・物価の上昇を反映して年金額を調整する(増やす)。(2)景気後退期には賃金・物価の下落を反映せず年金額は改定しない(減らさない)。ただし、それでは年金制度の持続性が損なわれるので、(3)景気回復期には賃金・物価が上昇するが、年金は景気後退期の未調整分を含めて調整する。つまり、景気後退期には年金を下げず、未調整分は景気回復期までキャリーオーバーする、というわけだ。