2.競争政策を「捻じ曲げる」リスク

先述した楽天の秘策は、おそらく「ゲームのルールを変える」ことにあると著者は想像する。競争政策の既存ルールを自社に有利なものにすべく、積極的なロビー活動を行うのではないだろうか。たとえば次のような事態が考えられる。

(ア)自社の基地局整備が進むまでの間、他社の設備を利用する「国内ローミング」という手法も活用すると思われる。この場合のMNO間の料金は「相対」で決まるものであるが、強引に安価な規制料金制度を持ち込む可能性がある。また既存MNOの基地局を借用することも考えらえるが、この料金も低廉な規制料金とし、自社に有利な状況に持ち込もうとするだろう。このような事態になると、健全な設備競争が阻害され、結果として消費者に不利益になってしまう。

(イ)MVNOでもある楽天は既存MNOから帯域や回線を借りる形で事業を行っているが、MNOに参入する楽天に対して役務を提供する既存MNOにとっては敵に塩を送るようなものである。通常のビジネスであれば、利害相反が起こる事業者に対する役務の提供は打ち切ってもよさそうなものだが、こうしたMNO‐MVNO間の関係を維持するようにも当局にはたらきかけるだろう。

真の「競争メカニズム」が機能する制度設計を

競争政策の「歪み」は結果的に消費者の「不利益」となり、それでは携帯電話料金の値下げが期待できなくなってしまう。

だからこそ、楽天には小手先のロビー活動などに走らず、フェアで堂々たる第四のプレイヤーとして消費者の支持を獲得していってほしい。

そして政府は政府で「料金を4割削減する」といった官製価格を助長するような危うい発言をするのでなく、市場で真の「競争メカニズム」が機能するような制度整備を促していってほしい。

吉川 尚宏(よしかわ・なおひろ)
1963年、滋賀県生まれ。コンサルタント。A.T.カーニー・パートナー。京都大学工学部卒、京都大学大学院工学研究科修士課程修了、ジョージタウン大学大学院IEMBAプログラム修了(MBA)。野村総合研究所などを経て現職。専門分野は情報通信分野の産業分析、事業戦略、オペレーション戦略など。総務省情報通信審議会のほか、周波数オークションに関する懇談会等の構成員として政策提言を行う。著書に『ガラパゴス化する日本』(講談社現代新書)、『「価格」を疑え』(中公新書ラクレ)など。
(写真=iStock.com)
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