現実から遊離した言葉が独り歩きしている

【藤井】「安全装置」というのは、一種の道徳や倫理なのでしょうか。今の安倍政権ではモラルの崩壊が起きていますよね。それにネットのヘイトスピーチでは「死ね」「殺せ」といった言葉が飛び交っています。道徳主義的なことはいいたくないですが、最低限のエチカ(編集部注:倫理学)は必要なのかもしれません。

藤井達夫『〈平成〉の正体 なぜこの社会は機能不全に陥ったのか』(イースト新書)

【辻田】日本で「道徳」というと、今は右翼的なものになっているので、「市民社会の倫理」と言い換えてもいいかもしれませんね。

【藤井】市民としてやってはいけないこと、いってはいけないことはどこまでなのか。一線を越えていないか。どう越えないようにするのか。その線をどこに設けるのか。いったい誰がどのようにして設けるのか。

【辻田】まずは言葉を大切にするところから、始まる必要があると思います。今は言葉が本来の意味からどんどんはずれていく。今、批判されるとすぐに「言論弾圧」といわれます。でも本来の意味は違いますよね。現実から遊離した言葉が独り歩きしていて、それが勝手な文脈を持ったゲームになっている。言葉の本来持っている意味と、歴史的なつながりをひとつひとつ大切にしていく。それがあるべき状態なのだと思います。

【藤井】新たな物語をつくることによって、暴発を規制する。そしてゲーム化する言論に対して、民主的な価値と両立するゲームのルールを構築していく。これらの必要性に気が付いた人がそれぞれの立場から思案し、発言していかないといけないのでしょうね。

藤井達夫(ふじい・たつお)
政治学者
1973年岐阜県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科政治学専攻博士後期課程退学(単位取得)。現在、同大学院ほかで非常勤講師として教鞭をとる。近年の研究の関心は、現代民主主義理論。共著に『公共性の政治理論』(ナカニシヤ出版)、共役に『熟議民主主義ハンドブック』(現代人文社)など。
辻田真佐憲(つじた・まさのり)
作家・近現代史研究者
1984年大阪府生まれ。慶應義塾大学文学部卒、同大学院文学研究科中退。現在、政治と文化芸術の関係を主な執筆テーマとしている。著書に『空気の検閲』(光文社新書)、『文部省の研究』(文春新書)、『たのしいプロパガンダ』(イースト新書Q)など多数。
(写真=iStock.com)
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