【辻田】福田恆存が、保守とは「横町のそば屋を守ること」といっていますよね。保守は主義じゃなくて態度だと。むしろ生活実感から離れた大きな国家を考えてしまうほうが左翼なのです。

パソコンに向かって保守を熱く語っている人間が、隣家の人間としゃべったことのない状態はおかしい。コミュニティーの重視については右派左派ともに注目されていますが、手と足が届くコミュニティーに参加し、記号とのバランスを取ることが重要だと思います。

「コミュニティーの復興」という活路

【藤井】保守主義の可能性はそこにありますよね。今はいきなりナショナリズムに飛躍していますが、保守主義はもともと地域や郷土、家族、コミュニティーと結びついたものです。

アメリカの場合、オバマ前大統領はコミュニティー・オーガナイザーの仕事にかつて従事していました。コミュニティー・オーガナイジングは一九三〇年代に生まれた左派の運動です(その創始者であるソウル・アリンスキーは自らをラディカルと呼んでいますが)。資本主義によってコミュニティーが破壊され、犯罪と貧困の巣窟になってしまった。そこでコミュニティーの力で自分たちの問題を解決しようとする動きが生まれました。

このような運動は保守系・右派団体もやっていて、ゼロ年代の終わり頃からティーパーティーが話題になりました。この保守系集団も左派のコミュニティー復興運動の手法を学んでいるのです。

日本でも子ども食堂のような流れがあり、自分たちのコミュニティーを守っていこうとしています。これは右派も左派も共通の課題として掲げられる論点です。

【辻田】派手ではないし、面倒な道ですが、肉体を動かし、直接人と会わなければ、記号の応酬から逃れられないでしょう。