なぜ東京医科大は「推薦入試で便宜」を図らなかったのか
文部科学省の現役局長が自分の子供を医大に裏口入学させた受託収賄容疑で逮捕された。報道によれば、あまりの衝撃に同省幹部は「時代劇の話かと思った」と驚いたというが、私はその手口に驚いた。高等教育分野で要職を歴任し、将来の次官候補と目されたエリートがかかわったとは信じられないほどお粗末なやり方だったからだ。筆記試験に加点という手口は、答案が証拠として残ってしまう。多くの関係者を悪事に巻き込むうえに、そのうちのひとりが口を滑らすだけで発覚してしまう。逮捕後に解任された佐野太・前科学技術・学術政策局長は、容疑を否認しているというが、果たして……。
どこの大学でも入学試験の答案は公文書として5年間程度の保管を定めている。大学側が不正に加点して合格させても証拠は残る。答案を見れば採点者もわかるから、不正加点にかかわった人間も明らかだ。佐野容疑者の息子の答案用紙だけ不自然になくなっていたとしても、それはそれで疑惑が深まるだけだ。筆記試験への加点は、裏口入学を迫られた大学側のリスクが大きすぎる。
佐野容疑者の経歴なら、大学入試の仕組みにも詳しかっただろうに、なぜ推薦入試で便宜を図らせるような道をとらなかったのだろう。
小論文と面接だけで審査する推薦枠なら、いくらでも合格の理由をつくることができる。少子化が進む現在、「学生の多様化」「教育の活性化」などの理由で、推薦枠を設ける大学は増えており、東大医学部でさえ推薦枠はある。ちなみに、佐野容疑者の息子が“合格”した東京医科大でも推薦入試を実施している。2018年の同大学医学部医学科の一般入試は、3535人が受験して、合格者は214人、16.5倍の狭き門だったが、一般推薦の場合、約80人が受験して合格者は約20人と競争率は4倍程度。門はずっと広くなるうえに、自筆の答案という物的証拠は残らない。