大手企業のコネ入社、バカ息子・娘の見本市

話がだいぶそれたが、それぐらい主観というものは個人間でまったく違うもので、主観にもとづいて多少違和感のある決定を面接でしても文句を言われる筋合いはまるでないということだ。就職試験の場合、筆記試験が重視される大学入試以上に「あれっ」と思う人材が採用されるケースはよくある。私が採用担当者なら、あまり変な人材は自社に入れたくないと思うだろうが、親のコネクションだって本人の能力のうちと見なす企業は多く、大手企業にはコネ入社のバカ息子・娘の見本市みたいな部署があったりする。

東京医科大にしても、合格基準に満たない成績の学生が1人増えたとしても、授業についていくのは難しいだろうし、卒業にも苦しむだろう。ましてや国家試験に合格などできないから、医師になって世間に迷惑をかけることもない。それなら、補助金のために1人くらい受け入れても、という考えなら、犯罪者心理として理解できなくもない。

永田町に30年以上勤めていれば、裏口入学の例はよく耳にする。いずれも、わが子の将来を過剰に心配する親の強い愛情からなのだろうが、どんなに有力な支援者だろうと、政治家が裏口入学の口利きに動いたら確実にアウトだ。国会議員の中には「支援者の陳情を断れない」と、要望だけ聞いて政治献金を集めるという悪質な事務所もある。合格発表の前に結果だけ知らせてもらい、事前に支援者に「合格おめでとうございます。私も精一杯汗をかかせていただきました!」と伝えることで、まるで合格を働きかけたかのように装う。それで謝礼がたんまりという手口。議員事務所は潤うが、実力で合格した支援者の息子は一生「裏口入学」という烙印を背負うことになってかわいそうだ。

佐野容疑者のお粗末な行動で、霞が関の約1万8000人の官僚とその家族は多大な迷惑をこうむっているのではないか。

大学に通う子女がいれば「あなたのお父さんキャリア官僚なの? それも文部科学省の? ひょっとしてあなた『裏口』で大学入ったの?」と疑われるからである。

私は今回の事件で捜査の指揮を執る、東京地検特捜部の森本宏特捜部長とは旧知の間柄だ。森本氏は特捜畑出身で捜査現場に強いだけでなく、法務官僚としても能力が高い、検察のエースとして注目されているが、その優秀さを見込んで小泉内閣時代に官房副長官の秘書官として働いてもらった。森本氏には徹底的な真相の究明をしてもらいたいし、霞が関で働く官僚、そしてその家族のためにもこれ以上の余罪がでないよう祈りたい。2020年にオリンピック・パラリンピック開催が控えているいま、文部官僚諸君にはしっかりしてもらわなければ困る。

(写真=PIXTA)
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