田中氏と東京教育大附属駒場高校の同級生で、元国立がん研究センター中央病院院長の土屋了介氏は、当時の状況を「東京医大の改革のチャンスを厚労省がダメにした」という。

当時、筆者は田中氏、土屋氏と一緒に会食をしたことがあったが、田中氏からは改革の意図は感じられなかった。むしろ厚労省が中途半端に介入したことで、問題がうやむやになるのではないか、という印象をもった。今回、裏口入学とあわせて、女性受験生の点数を一律に切り下げていたことが報じられているが、その施策は2011年に始まっていたというのだから、東京医大幹部は何も反省していなかったと言われても仕方ない。

「名誉欲の強いやつには、勲章をちらつかせることが効く」

臼井氏は2013年に理事長に就任している。これだけの不祥事を起こせば、引責辞任するのが普通だ。それが学長から理事長に昇格するというのはありえない。彼は、このときに「官僚に頼れば問題は解決できる」と学んだのではなかろうか。

その後、臼井氏は官僚への傾斜を強め、今回、露見した文科官僚の子弟の不正入学へとつながっていく。前述したが、彼の経歴をみれば高級官僚との接点は少ない。剛腕理事長として、厚労省や文科省の高官がすり寄ってくるのは、彼の名誉欲をくすぐっただろう。官僚は、このあたりがうまい。

知人の元キャリア官僚は「年をとると性欲や金銭欲はなくなる。最後に残るのは名誉欲だ。名誉欲の強いやつには、勲章をちらつかせることが効く」と言う。彼らは「入省1年目から、このようなことをたたき込まれる」そうだ。

慈恵医大や慶大とちがい、東京医大には広いネットワークはない。医局の狭い世界でいきてきた臼井氏を籠絡するなど容易だったろう。東京医大の問題は、東京の私立医大の歴史や権力者の人となりを見ないと真相は見えてこない。(後編に続く)

(写真=時事通信フォト)
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