誰でもなる「うつ状態」は病気?
1:やる気が出ないときどうするか

日常的な軽い落ち込みから、うつ病と診断されるまでの症状は、地続きで変化しています。ですから「ここからがうつ病」と明確に一線を引くことはできません。たとえば、両親や親友と死別したときに、数カ月間落ち込むことは病気なのでしょうか?

これまで「死別反応」については、眠れない、食べたくない、などうつ病の症状を示していたとしても、少なくとも「後を追いたい」など不穏な言動がない限り、当たり前のこととして周囲がそっと見守ってきました。

精神科医のバイブルともいわれる米国の「精神障害の診断と統計マニュアル(DSM)」でも、これまで死別にともなう「うつ」については、例外的に病気と診断してはいけない、という除外基準がありました。ところが、2013年に改訂された最新版DSM-5では、死別反応を「うつ病」の範疇に入れ、2週間経っても改善の様子が見られないときは、うつ病と診断できるとし、医療の介入を認めたのです。これに関しては、世界中の精神科医から非難の声が相次いで、病気かどうかは最終的に精神科医が判断する必要があるという但し書きがつきました。

もっとも、病気と診断されようがされまいが、身近な人と死別したときの人間の反応に変わりはありません。ひどく辛くて生活に支障が生じるようだと医学的な治療が役に立ちます。その一方で、回復のためには、時間とともに病的な気分や行動を少しずつ克服していく自分の力も大切です。

「重さと時間と経過」を見ること

死別のような大きな体験でなくても、私たちは失恋や転勤、昇進などの小さな喪失を日常的に経験しています。うつ病の患者さんでなくても、気分が沈み込むことは日常的にあります。こうした軽い落ち込み、つまり「うつ状態」を、安易に「うつ病」と診断するべきではありません。

一般的には、気分の落ち込みなど典型的な症状が2~3週間続いたら「うつ病」を疑います。ただし、この2週間というのも根拠があってないようなもので、私がよくお話ししているのは「重さと時間と経過」を見ること。

たとえば、仕事上のミスで落ち込むことは誰でも経験しますね。それでも、数日経てばまた頑張ろうと思えてきます。しかし、徐々に抑うつ気分や眠れないなどの症状が悪化し、あるいは全く立ち直る気配がない場合は、医療機関を受診したほうがいいでしょう。

熱があっても、少しずつ下がっているなら様子見ですが、そこからさらに上がるようなら、病院の診療や薬が必要になる――「うつ病未満」と「うつ病」を見分けるのも同じことなのです。

「重さと時間と経過」に注意し、とにかく辛くて何もする気が起きない、仕事や家事、睡眠や食事といった基本的なことに支障が出ているなど、明らかに生活に悪い影響が生じている場合は、医療の手を借りたほうがいいでしょう。