「指導」するだけでは防げない
5:「部下が自殺!」となる前に

あなたの職場でも、うつ病の人が増えているのではないでしょうか。部下がうつ病の兆候を示したら、すぐに適切な対応をとらなくてはいけません。

参考になるのは、大手広告代理店の電通で1991年に起きた入社2年目の男性社員の自殺事件です。00年3月の最高裁判決で「過労による自殺」と認定されました。

判決では、仕事の負荷が原因でうつ状態が悪化していることを上司が「認識」していながら、負担を軽減するために仕事の量を調整するなどの適切な措置をとらなかった点を指摘し、電通と上司側の安全配慮義務違反を全面的に認めています。

上司は男性の変調に気づきながら、仕事の量を減らしたり他の社員に振ったりするなどの対策をとらなかったのです。

裁量権がある中堅社員ならまだしも、若い社員は「仕事に穴をあけ、迷惑をかける」ことへのおそれが先立ちます。具体的な改善策が提示されない限り、逆に追い詰められてしまいます。管理職は、この問題に真剣に取り組まなくてはいけません。

ケアする際は「WHY(なぜ)?」で始まる質問で原因や理由を追求しないこと。というのも、「なぜこんな問題が起きたんだ?」という問いには、暗に相手を責めるニュアンスが含まれているからです。

そうではなく、「HOW(どのように)」で始まる質問を投げかけ、どのようなプロセスで問題が起こったのかを客観的に振り返り、どのように解決していくかを一緒に考えていけるといいでしょう。

上司だけではなく同僚も、何か様子がおかしいと気づいた時点で、一緒に具体的な解決策を探そうと、本人に声をかけることが大切です。

このとき「最近、調子が悪いんじゃない?」という抽象的な問いかけをするのではなく、

「仕事がたまっているけど、無理をしていない?」
「顔色が悪いけど、眠れているの?」

などと、具体的な根拠を示しながら心配していることを伝え、場合によっては受診を促しましょう。

うつ病は誰でも発症する可能性がある一方で、対応を誤ると致死的な経過をたどる怖さがあります。しかも、一般的な理解とは異なり、「明らかな自殺の兆候」というものはありません。

うつ病のときは衝動や不安を抑える力が弱くなっているので、突発的に自殺を選んでしまうリスクが高いのです。こうした事態を防ぐためにも、日頃から一人ひとりの業務量や立ち居振る舞いに気を配りましょう。

トヨタ自動車の有名な「カイゼン」の原点は「変だと思ったら、ラインを止める」という意識でした。私は職場のうつ病対策も同じことだと思います。些細な問題で生産ラインを止めることを恐れず、危機を未然に防止するチャンスとしてください。

▼電通事件(1991年)の教訓
×:帰宅してきちんと睡眠を取り、それで業務が終わらないのであれば翌朝早く出勤して行うように
○:仕事を分担する社員の確保など具体的な案まで提示する!
大野 裕(おおの・ゆたか)
認知行動療法研修開発センター理事長
1950年生まれ。慶應大医学部卒。同大教授、国立精神・神経医療研究センター認知行動療法センター長を経て現職。『最新版「うつ」を治す』ほか著書多数。
 
(構成=医療ジャーナリスト・井手ゆきえ 撮影=大杉和広 写真=iStock.com)
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