──では、AI時代に生き残れるのは、どのような社員でしょうか。

単に知識があるとか、分析ができるといったスキルがあるだけでは、AIに取って代わられてしまうでしょう。なぜなら、知識や分析だけならAIのほうが的確ですから。今後価値が高まるのは、それらのスキルをベースにして、顧客に対してコンサルティングができる人です。知識や分析を基に「こうすべきだ」と自分の意見をきちんと表明できる人、責任を伴った判断ができる人は生き残れると思います。たとえAIが正しいとして出した情報であっても、それを最終的に判断するのは人間ですから。

座学で教えるより、現場での失敗が大切

──責任を伴った判断ができる人材は、どうすれば育成できますか。

昔、人の育て方を“昆布漁”にたとえた次のような話をよく社内で耳にしました。

昆布漁に新人が入ると、いきなり船に乗せて、昆布がある沖まで連れていきます。沖に着くと、海の中に突き落とし、海の中でもがいている様子を見ていて、そろそろ限界かな、と思ったら引き揚げる。すると、泳げない新人ほど暴れるので、昆布が巻き付いてきます。これを何回も繰り返しているうちに、やられるほうはたまったものではありませんから、苦しまずに昆布が採れる自分なりの方法を見つけ出します。

一方、このようなやり方は乱暴すぎるということで、最初に座学で、昆布の群生している場所や、潮の流れ、採り方などを教え、次に温水プールで泳ぎ方を教えるなど、十分な準備をしたうえで現場に送り出すやり方もあります。しかし、実際にやってみると、プールと違って海水は冷たくて波もあり、教えられた通りにはなかなか採れません。いったいどちらがいいのか、というたとえ話です。

現場で育てるという育成のやり方

何の知識も持たないままやらされるのはつらいですが、生き延びるための知恵はつきます。事前にいくら知識をつけても、結局は現場でもがきながら判断力を身につけていくしかありません。

また、どんなに一生懸命勉強して頭の中に詰め込んでも、すぐに忘れてしまうものです。しかし、実際にビジネスの現場で、知らなかったことによって恥をかいたり失敗したりすると、同じことを繰り返さなくなるように、そのときの経験を自分の中に叩き込むので、一生忘れなくなります。こうした現場での積み重ねが、判断力を磨いていくのではないかと思います。私自身も、日々失敗や恥を積み重ねて今に至っています。

入社以来、多様なタイプの上司に接してきたことも、判断力を磨くことに役立っています。聖人君子はいませんから、どんな人にもいいところもあれば駄目なところもあります。ですから、上司の行動を常に観察し、いいところは真似をして、駄目なところは反面教師にすることで、上の役職に就いたときにどう振る舞えばよいか、事前に心構えができました。

現場で育てるという育成のやり方は、AI時代になっても変わらないでしょう。知識だけではなく、現場で生まれたさまざまな知恵を集積することによってしか、顧客の立場に立ったコンサルティングはできないからです。