都内のほとんどの飲食店ではタバコはもう吸えない

条例の内容も問題だらけだ。現場の実情を理解していないと思われるのが「従業員を雇っている飲食店は広さにかかわらず原則禁煙」という規定である。国の健康増進法改正案では、「客席面積100平方メートル以下」「個人経営や資本金5000万円以下」の店では喫煙も可能にできるが、都の条例案は、さらに厳しくなっている。今、都内で従業員を雇っていて条例による規制の対象となる店は、飲食店全体の80%以上だ。つまり、ほとんどの飲食店ではこれからタバコはもう吸えないということだ。

条例案の全面的な撤回が困難な今、「従業員がいたらダメ」ではなく、「従業員の合意がなければダメ」という形に修正してはどうだろうか。従業員には喫煙者も含め、いろいろな人がいるはずだ。これほどまでに分煙の進んだ東京で、さらに喫煙者全員から恨みを買う必要もないと思うのは私だけだろうか。

このところ、豊洲市場移転問題でも、都の顧問制度でも、本来の「政治家・小池百合子」らしい現実的な対応が増えてきていたので、今度も大丈夫ではないかと思っていたのだ。実際、東京都では国の喫煙対策である健康増進法改正案の内容について、厚生労働省側とのすり合わせもしていたようだし、期待していた分、少し心配している。

もしも、小池知事が喫煙対策に力を入れるなら、屋内については国に任せて、都内の各自治体によって違う路上喫煙禁止条例の罰則を統一する音頭をとってはどうか。ある自治体では路上喫煙は罰金刑なのに、隣の区では禁止すらされていないというのでは、外国人観光客を悩ますのではないだろうか。

都市部には、牛肉、ごはん以外にも排ガスの問題もある。タバコが全滅したところで、健康への懸念はゼロにならないのである。人は誰でも普通に生活して食事をしているだけで、病気になるリスクがある。行政は正確な情報の発信を心がけて、あとは個々の判断に委ねるというのが成熟した民主国家のあり方であろう。

自分の店を分煙にするか禁煙にするかや、加熱式タバコの可否は、店舗の経営者と従業員が自主的に判断すべきで、そこに行政が介入することは民業圧迫であり営業妨害だ。

(写真=PIXTA)
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