目的で変わるのは「じゅうたん」と同じ

「スーパーボウル」試合会場でグラウンドクルーを務める(写真提供/オフィスショウ)

ここまで池田氏が言い切れるのは、「目的」と「役割」に応じて、さまざまな管理をしてきた経験があるからだ。活躍の舞台は日本だけではない。全米最大のスポーツイベント、ナショナル・フットボールリーグ(NFL)の優勝決定戦、「スーパーボウル」試合会場のグラウンドクルーを1994年から務める。たった1試合のために何千万円もの整備費用をかけ、時にはぬれたグラウンドを乾かすために、ヘリコプターでホバリングする(空中停止して地面の水を飛ばす)ような手法も体験した。

そうした最高舞台での長年の活動も踏まえ、さまざまな現場と向き合ってきたのだ。

「国内で当社が担う『フィールドの管理』には、使う人の目的、管理に割ける予算、天候の状態といった視点が欠かせません。プロ選手が使う場合でも、試合会場と練習場では整備の仕方が違う。試合会場では、ホームチームの選手が最高のプレーができるように整備し、練習場では、見た目よりも選手の頻繁な使用に耐えられるよう、整備を行います」(同)

池田氏は、こうした「試合会場」と「練習場」の管理の仕方の違い、「予算」によるやり方の違いを、師匠であるジョージ・トーマ氏(米国で最も有名な“伝説のグラウンドキーパー”)から学んだ。芝生をじゅうたんに例えて、池田氏はこう続ける。

「じゅうたんも最高級品のペルシャじゅうたんから、格安品までさまざまです。高級ホテルのロビーに敷く場合と、労働着で出入りする作業小屋では違います。あまり杓子定規に考えないほうがよい。私の自宅の庭にも芝生がありますが、デリケートには管理しません。草は伸びるので年に20回ぐらい刈りますが、費用は芝刈り機のガソリン代程度です」

草や芝をこまめに刈るのが「芝生」

芝生の世界ではよく知られた、「鳥取方式」と呼ばれるものがある。NPO法人グリーンスポーツ鳥取(2002年設立。代表理事・ニール・スミス氏)が提唱する、芝生文化の広がりをめざした活動だ。グリーンスポーツ鳥取が掲げる「芝生」とは、「種類を問わないで、草や芝を頻繁に刈って出来上がった、転んでも痛くないじゅうたんのような形状」をさす。

これまで紹介した話と似ているだろう。実は、ニュージーランド人で日本の居住年数も長いニール氏が、土のグラウンドや校庭ばかりの日本に疑問を持ち、始めた活動だ。ニール氏は「芝生化運動」を推進するため、池田氏の教えを受けた。

現在は鳥取県の理解も進み、行政と連携した活動も行う。一方で、有名になった「鳥取方式」を勝手に名乗り、高額な芝生を売りつける業者も現れるなど、対応にも苦慮。やむなく登録商標にした経緯もある。「千代川河川敷の芝生広場」(鳥取県)のように管理終了となった例もある。それでも賛同者は増え、徐々に「芝生文化」は根づいてきた。