虐待相談件数は12万2578件で過去最高を更新

赤ちゃんポストは日本で唯一、罪に問われずに子どもを棄てることのできる場所だ。

この日本にたった一つの、それも一民間病院がつくったポストは、育児放棄や児童遺棄から「命だけは救いたい」という思いで設置された。

「命の救済」か、「子棄ての助長」か、といった議論がなくなることはないが、最後のとりでとしてポストにたどり着いた人たちを救ってきたといえるだろう。

では、虐待は減っているのだろうか。次のグラフを見てほしい。児童虐待の増加は深刻さを増している。

児童相談所での児童虐待相談対応件数とその推移

2016年度に全国の児童相談所が対応した児童虐待は、12万2578件(速報値)と、過去最多を更新。虐待によって死亡する子どもも後を絶たず、生まれて間もない新生児が死亡するケースも目立つ。

昨年6月に放送されたNHK「クローズアップ現代+」に出演した映画監督・是枝裕和氏は、倫理感や責任感の欠如と思われるポストへの預け入れがあるという事実を踏まえた上で、次のように語った。

「家族という共同体からも地域からも孤立している母親に対して、『しっかりしろ』と言うだけでは、これらの問題は何も解決しない」

是枝氏が監督を務めた映画「誰も知らない」は、巣鴨で実際に起きた置き去り事件を題材にした作品だ。4人の子どもをもつシングルマザーは、パートをしながら子育てをしているが、ある日、恋人をつくりアパートに戻らなくなり、放置された子どもたちのサバイバル生活が始まる。

実際に起きた事件は子どもが5人いて、映画で描かれたよりもずっと悲惨なネグレクト状態であったという。しかし、是枝氏は、この映画の中で子育てを放棄する母親を裁こうとしているわけではない。「教育が受けられない、生きるための正確な情報が得られない、家族や地域から見放された」彼女に、手を差し伸べられなかった現代社会を描いているのではないだろうか。