緊急時の親権について、明確なルールがない
こうした中、国は子どもの安全を守るために、2011年、親権に関する法律を改正。無期限に親権を取り上げるのではなく、虐待や育児放棄をした親の親権を一時的に停止するという新たな制度を設けた。親権を停止する期間は最長で2年。その間に、親の問題行動や養育環境を改善させ、再び親子がともに暮らせるようにすることがこの改正法のねらいだ。
最高裁判所の統計によると、2011年までに申し立てのあった「親権喪失」の件数は、150件前後にとどまっていたが、民法の改正以降、申し立てが倍増、2016年には316件の親権の一時停止の措置が取られている。
子どもが虐待を受けたり、育児放棄や遺棄されたりした場合の親権の取り扱いについて、明確なルールが設けられている国も多い。
日本では、なぜ同じことができないのか。
親権をめぐる問題に詳しい弁護士で、NPO法人児童虐待防止協会の理事を務める岩佐嘉彦氏は、こう指摘する。
「親権を一時的に停止し、子どもを安全な場所に保護できる制度ができたとしても、裁判所が親権を奪ったり、制限したりすることに躊躇するケースも多くあります。子どもの命を守るための制度自体は一歩踏み込んだものになりましたが、現場ではあいまいなまま進められているのが現状です」
このように我が国の児童福祉に関する制度や仕組みは、決して十分だとは言える状況ではない。子どもの視点に立った福祉改革をすぐにでも実行に移さなければ、また同じような事件が繰り返されるであろう。
※ここまで書籍の内容を再編集したものです。
親たちに適切な治療を施さなければ、同じことを繰り返す
結愛ちゃんは顔や太ももにあったアザについて聞かれたとき、「父親に蹴られた」と答えたという。これは明らかに虐待である。父親は病んでいる。この状況を見過ごしていた母親も同様だ。子どもを引き離して、親たちに適切な治療を施さなければ、同じことを繰り返すことは明らかだった。
子どもをもうけて親になったからといって、すべての親が子どもに十分な愛情を注げるとは限らない。幼少期に愛された経験のない人は、親になってからもわが子を慈しむことができないことがある。また経済的にも精神的に追い詰められた環境で、子どもを育てるよりも、自分たちが生きることを優先する大人たちも存在する。
児相や警察の対応に問題がなかったとはいえないだろう。しかし、このような問題を抱える大人たちも同時に救うことを考えていかなければ、子どもの命は守ることはできないはずだ。
強者である大人によって弱者である子どもの命が葬られるようなことは、決してあってはならない。この悲惨な出来事を機に、児童福祉に関しての社会の関心が高まることを願ってやまない。
結愛ちゃんのご冥福を心よりお祈りする。合掌。
NHKで結成された取材チームは、日本初の赤ちゃんポストを10年にわたって追い続け、その姿を視聴者に伝えてきた。2015年に放送された「クローズアップ現代」では、実際にポストに預け入れられた子どもに報道機関として初めてアプローチ。10代に成長した少年の生の声を届け、全国に衝撃を与えた。2017年6月には「クローズアップ現代+」にて、ポストの“今”と、その課題を明らかにした。