急増する子育て困難者
三菱UFJリサーチ&コンサルティングによる「子育て支援策等に関する調査 2014」の「子どもの育ちと子育て環境」の項目内にある調査結果を見てみると、明らかに地域の中での子どもを通じた付き合いが減少したことが読み取れる。
2002年では「子ども同士遊ばせながら立ち話をする人がいる」と答えた人は81.0%であったが、2014年は47.5%と激減。「子どもを預けられる人がいる」と答えた人は57.1%から、27.8%と同様に大幅に減少している。
特に近所づきあいが希薄な都市部では、地域ぐるみで子どもの成長を見守るという状況はなくなり、孤独の中で子育てと向かいあっている人たちが増えている。かつて、セーフティネットの一つとして存在した地域における共同体は、もはや機能しなくなったといえるだろう。
このように人と人とのつながりが急速に失われていく中、親子を支援するための機能的な仕組みを早急に構築しない限り、子育て困難者は増えていくばかりで、子どもを虐待したり遺棄したりする人はいなくならない。
強すぎる親権問題、進まぬ特別養子縁組
今回のケースのように子どもを虐待死させてしまう親がいる一方で、子どもを望むカップルはごまんといる。しかし、日本では血縁関係を重視する家族観が邪魔をして、特別養子縁組がなかなか広まらない。
養子縁組を前提とした「養子縁組里親」や、子どもを一時的に家庭で育てる「養育里親」、複数の子どもを家庭に受け入れる「ファミリーホーム」の数は、全国的に増加傾向にあるものの、厚生労働省によると、親のいない子どもや虐待や貧困などで家庭的な養護が必要だとされる子どもは、およそ4万6000人にのぼる。
このうち、里親の元で暮らす子どもは6000人。特別養子縁組の成立件数は、ここ5年間の推移を見ても、毎年わずか500人程度にしかすぎない。施設で暮らしている子どもは3万人以上と実に全体の8割近くにのぼり、里親に引き取られて暮らしている子どもは一割にしか満たない。
その原因に、強すぎる親権の問題がある。日本の民法で定められている親権は、未成年の子どもを育てるために親がもつ権利と義務のことで、子どもの養育、教育やしつけ、それに住まいや財産を管理するといったことが含まれている。
一方、しつけと称して子どもに暴力を振るったり、育児放棄や遺棄したりすることは児童虐待にあたり、親族などが家庭裁判所に申し立てれば親権を取り上げることができる「親権喪失」と呼ばれる制度もある。
しかし、親から親権を奪うと無期限にその権利が失われることになるため、多くの児童虐待の現場では、親子が再統合できなくなるおそれがあると判断し、「親権喪失」の申立てはほとんど行われていない。