思い込みとは違う読売新聞と毎日新聞の表現

次に、アマゾンのブック・レビューを離れて、新聞の社説について、上と同じ技術を使って分析した結果を紹介します。まずは、クイズです。

表2の名詞群AとBは、それぞれ読売新聞と毎日新聞に特徴的に見られるものです。また、表3の末尾表現群XとYも、それぞれ読売新聞と毎日新聞に特徴的に見られるものです。それぞれ、どちらが読売新聞、どちらが毎日新聞のものでしょうか?

早速、クイズの正解を発表しましょう。表2の答えは分かりやすいのではないでしょうか。政治に詳しくない人のために、少しだけ前提知識を言っておくと、読売新聞の論調は右寄り・保守、毎日新聞の論調は左寄り・革新です。これを知っていれば答えは簡単ですね。Aが毎日新聞で、Bが読売新聞です。

『「先見力」の授業』(掛谷英紀著・かんき出版刊)

では、表3についてはどうでしょうか? 実はこのクイズを、これまで講演会等で学者、官僚、マスコミ関係者等の文系知識人の方々に何度か出したことがあるのですが、大多数の人は「Xが毎日新聞で、Yが読売新聞である」と答えています。しかし、それは不正解です。Xが読売新聞、Yが毎日新聞に特徴的な表現になります。これも、人間が気づかない特徴をコンピュータが見出したという意味で、「当たり」の研究でした。

クイズで取り上げた2つのリストを比べてみると、名詞レベルでは読売新聞にハードな表現が多く、毎日新聞にはソフトな表現が多いことが分かります。逆に、末尾表現は読売新聞がソフトで、毎日新聞がハードな表現を使っています。こうした表現のギャップの利用は、政治的プロパガンダや悪徳商法、新興宗教の勧誘などのテクニックとして、かなり頻繁に使われている印象があります。ですから、この種のコミュニケーション・テクニックには、今後十分注意していただければと思います。

掛谷 英紀(かけや・ひでき)
筑波大学システム情報系准教授
1970年大阪府生まれ。93年東京大学理学部生物化学科卒。98年東京大学大学院工学系研究科先端学際工学専攻博士課程修了。博士(工学)。通信総合研究所(現・情報通信研究機構)研究員を経て、現職。専門はメディア工学。NPO法人「言論責任保証協会」代表。著書に『学問とは何か 専門家・メディア・科学技術の倫理』『学者のウソ』など。近著に『「先見力」の授業』(かんき出版)がある。
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