「天然痘根絶」はレアケースだった

しかしちょうどこのころ、エイズウイルス(HIV)が出てきた。

1981年6月にエイズの最初の公式報告が米国疾病対策センター(CDC)発行の報告書に掲載され、その後エイズが全世界に広がっていった。

天然痘の制圧成功はレアケースだったのである。

沙鴎一歩は、感染症を制圧することはできないと考えている。制圧できないならばどうすればいいのか。日頃からの予防はもちろんのこと、ワクチンや抗ウイルス薬を使いながらウイルスや細菌などの病原体をうまくコントロール(制御)して感染症と付き合っていくしかない。

はしかも同じである。

産経はワクチン2回接種を強調する

このあたりで新聞の社説を取り上げよう。

まずは5月13日付の産経新聞の社説(主張)。見出しで「『ワクチン2回』の徹底を」と訴えて書き進めていく。

「日本では、世代によって免疫に差がある。50代以上の世代にとってはしかは『かかる病』だった。一度感染すると、免疫は生涯続くとされる」

産経社説は「免疫は生涯続くとされる」と、「される」という表現を使って断定をさけている。慎重なのか、それとも取材が足りないのか。書いている論説委員(社説は論説委員たちの議論を経てひとりの論説委員が執筆する)に自信がないのだろう。

今回のはしかの流行の重要な要因として、日本国内に土着ウイルスが存在しないことが挙げられる。自然界に存在する土着ウイルスに感染してこそ、終生免疫を獲得できる。

はしか流行は土着ウイルス排除の反作用

それがたとえ生ワクチンであっても、ウイルスの毒性などをぎりぎりまで弱めたものである以上、どうしても免疫獲得の効果は弱くなる。

だから厚生労働省はワクチンの2回接種で免疫力を強めることを呼び掛けているのだ。

果たして産経新聞の論説委員はそこを理解しているのだろうか。疑問である。

「40代以下の世代にとっては、ワクチンで『防ぐ病』である。平成18年度に、それまで1回だったワクチン接種が2回になった」
「初回は1歳で、2回目は小学校入学前に行う」
「今回の流行は、30代の感染が最も多い。それに20代、40代が続く。2回接種が徹底されていない世代で広がったようだ」

産経社説は2回接種の不徹底こそが、流行の原因だと考えているようだが、流行の原因は土着ウイルスの欠如にあるのだ。はしかを排除した反作用なのである。