見えない「赤報隊」を追い続けて31年

今年2月21日、岩波書店から『記者襲撃 赤報隊事件30年目の真実』という書籍が出た。著者は事件の発生当時から30年以上犯人を追い続けている元朝日新聞記者の樋田毅さん。NHKスペシャルで草なぎ剛さんが演じたあの記者だ。

樋田 毅『記者襲撃 赤報隊事件30年目の真実』(岩波書店)

樋田さんはまえがきにこう書いている。

「時効を機に、取材班が解散した後も、私は新聞社の本業の仕事の合間を縫って、1人で、あるいは昔の仲間の協力を得て、細々とだが、事件の真相解明への努力を続けてきた」

「6年前に定年のため再雇用の契約社員になった後も、1~2か月に一度ずつ東京などに出向き、旧知の右翼に会うなど取材を続けた」

「見えない赤報隊を追い続ける。それが、私の記者人生を賭けた使命だと思い定めてきた」

樋田さんは新聞記者魂を持った男だと思う。

あの事件のどこが「義挙」なのか

朝日社説に話を戻す。

「事件直後、多くの人が怒りを表し、当時の中曽根首相は『憲法の保障する基本的な権利への挑戦だ』と批判した。ところがいま、銃撃を『義挙』と呼び、『赤報隊に続け』などと、そのゆがんだ考えと行動を肯定する言葉がネット上に飛び交う」

朝日社説はこう指摘し、「大切なのは、異論にも耳を傾け、意見を交換し、幅広い合意をめざす社会を築くことだ」と訴えるがその通りである。

樋田さんも『記者襲撃』で「この未解決事件が日本社会にも朝日新聞社にも暗い影を落としており、その影響は近年ますます広がっているのではないか、と私は思う」と書いている。

朝日社説に出てくる「義挙」という言葉は、数年前から「ネット右翼」と呼ばれる人たちが使っているようだ。いったいあの事件のどこが「義挙」なのだろうか。卑劣以外のなにものでもない。またネットを使って偏った持論を展開するのは恥ずべき行為だ。

一般的に人は異論に耳を傾けないで、自分の主張を通そうとする傾向がある。それゆえ異論も頭に置き、両論併記でものごとを考察しようとする努力が必要なのである。