延伸で年間90万人の乗客数増が見込める一方で、総事業費が約78億円という巨額投資となる。国や県の補助金が見込めるとはいえ、地域の完全理解までには至っていない。

臨時で発着する「ネモフィラシャトルバス」利用客(写真提供=ひたちなか市)

「鉄道の駅を廃止した町からは、活力が失われる」と関係者は一様に指摘する。茨城県内でも筑波鉄道(1987年4月1日で廃線)、日立電鉄(2005年3月末で廃線)、鹿島鉄道(2007年4月1日で廃線)といった事例が相次ぎ、その後の状況を見てきたからだ。

筆者は同市長を取材するのは3度目だが、今回の取材で判明したのは“鉄道オタク”であること。この場合のオタクとは“造詣の深さ”の意味合いが強い。「乗り鉄」「撮り鉄」といった言い方にならえば「残し鉄」だ。それは「公共交通の使命」に沿っての決意や行動といえる。

高齢化時代の「鉄道」と「道路」

現在は人口微増のひたちなか市だが、将来を見越すと人口減となる見通しだ。少子高齢化で、この先は通学定期を支える高校生の総数も減っていく。

それでも「海浜鉄道の未来志向」は興味深い。たとえば高齢者の運転による交通事故の影響で、この先「高齢者の免許返納」圧力はさらに強まるだろう。早めに運転を自重する人も目立つ。別の取材では、60代の社長から「交通不便な場所の出張でも、昔はクルマを運転して行ったが、腰に負担がかかるので近年は電車移動にした」という声も耳にした。

現在の高校生(通学定期利用者)や未来の小中学生(学校統合後の通学定期予定者)は、末永く“海浜鉄道の消費者”になってくれる可能性も高い。その鉄道に愛着を持って育った本人が、大人になっても友人・知人を招く効果が期待できるのだ。

高齢化時代の地方では、「鉄道」と「道路」に、どう資金を投じて、どのように中長期的に運営するかも課題だ。引いた視点で考えると、ひたちなか海浜鉄道の取り組みは、その課題に挑戦しているともいえるだろう。

高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。
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