社員が共有すべき「ソニーらしさ」とは何か

ソニーの人たちは製品企画の話をするとき、異口同音に、「ソニーらしさ」と言うことばを使う。

ペットロボット「aibo(アイボ)」は“ソニーらしい”製品か。

一体、ソニーらしさとは何だろうか。それがどんなものであるにせよ、これまで述べてきたように、過去、成長ドライバーの役割を果たしてきた製品と、現在の製品群との間にズレがあると言ってもそれほど間違いではないだろう。有機ELテレビのパネルは韓国メーカー製、iPhone7に引導を渡されたポータブルオーディオなどを見ていると、ソニーに期待をしているユーザーに対する、“ソニーらしさ”のメッセージは残念ながら彼らの製品群からはあまり伝わってこない。

言い換えれば、“ソニーらしさ”とは何かに対する共通の認識が、ソニーの社員間、あるいはまたユーザーとの間で共有されているとは思えないのだ。こうなると“ソニーらしさ”を植えつけているはずの個々の製品に対する“共感”はどのレベルであろうと、生まれはしない。したがって、新社長である吉田氏に与えられた最大の課題は、その“ソニーらしさ”を定義することによって同社が取り組むべき開発のベクトルをソニーグループ全体で一致させることだ。そして過去のソニーの何を継承し、あるいは変革するのかを明確にすることだ。

ソニーの内部には、“ソニーらしさ”の答えとして、その“代表選手”はペットロボット「aibo(アイボ)」だと考える人が多いようだ。しかし、筆者が昨年12月にプレジデントオンラインで主張したように、新しいアイボと過去のアイボにはつながりがない。したがって、生産が追いつかずウェーティングリストがあるという新しいアイボをやっと手に入れて喜び、場合によっては感動するユーザーがいるその陰で、息をしなくなった過去のアイボのお葬式をするユーザーがいる。後者のユーザーの中では、ソニーという企業に対して感動をおぼえる人はそんなにいないだろう。

クルマの世界では、国内外のメーカーが率先して過去の人気モデルやクラシックカーのレストアを手がけ始めている。つまり愛情のこもった製品を、いつまでも使い続けようという意識が企業と消費者の双方で高まっている時代なのだ。一方で、ソニーはアイボについて、「生産完了後7年以上たった製品に対してメーカーはサービス(修理)する義務はない」という姿勢をとり続けてきた。お葬式を出す人たちがいることを知りながら、それとは別の新製品をつくって“感動を与える”というキャッチフレーズを唱える姿が、筆者にはどうしても理解できない。折しも、今月4月26日には、千葉県のお寺で第6回のAIBO葬(前回は昨年6月8日)が営まれる、ということを付け加えておこう。

いずれにしても、財務の数字が改善したことはソニーにとって非常に喜ばしいことだ。だからこそ、その経営的な余裕を背景に、黙っていても“ソニーらしさ”の伝わる新製品を開発してほしい。そしてそれはソニー製品に対するユーザーの深い愛情に応えるものであってほしい。筆者はこれが新しいソニーのリーダー、吉田に与えられた最大の課題だと考える。聞けば、会見のときの眉間にしわを寄せる表情とは裏腹に、普段仲間と談笑するときの吉田は、実に明るくユーモアのある人物だと聞く。あまり情緒的なことばを使うのは気が引けるが、その明るさから真に画期的な製品が生まれることを期待したい。(文中敬称略)

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