さらに悪いことに、2010年には大型化と採算性のメドがたたずに、パネルの開発を中止。ところが、ソニーの開発中止を尻目に、韓国メーカーが開発を続行。2013年にはLGが大型パネルを使ったテレビを製品化。ソニーはもちろん国内メーカーはすべて韓国LG製のパネルを使わざるを得ないというのが現状だ。乗用車で言えば、クルマはつくる、しかしエンジンなどのパワートレインは他社から供給を受ける、ということだ。これではいくら周辺の特長を磨いても、ソニーが生み出せる付加価値の限界は見えている。もっと問題なのは、供給を受ける以上、供給元にはその製品・マーケティング戦略がある程度わかってしまうことだ。これでは本質的な“違い”はどこまで行っても望めない。

ソニーはトリニトロン方式のカラーテレビを独自に開発。

ソニーのディスプレイの歴史を見れば、製品の心臓部にこだわる姿勢が一貫していたはずだ。それは既存の技術に敢然と挑戦するところから始まっている。具体的には、1968年に製品化したトリニトロン方式ブラウン管の開発成功だ。年間売上高は、トリニトロン発売前年度1967年の584億円から68年には712億円、3年後の70年度には1490億円と約2.6倍増を記録。これによって、ソニーは音響メーカーから、オーディオとビジュアルの両方を手がける総合エレクトロニクスメーカーとなった。つまり、技術開発にこだわる執念が同社の“成長ドライバー”を生み出したのだった。

そんなソニーが、世界に先駆けて量産化した有機ELパネル開発の主役の座を、10年かけて後続の韓国メーカーに明け渡すことになった理由がどうにもわからない。性能に圧倒的な差をつけるためには、根本的なところでの開発力がものを言うことを、トリニトロンで経験してきたはずではないのか。したがって、ソニーの製品開発力には“陰りが見える”、と言わざるを得ないのだ。

ウォークマンを生んだ独創的な発想力と開発力

ソニーは画期的製品を次々に開発してきたし、ユーザーの期待もまたそこにあるはずだ。ソニーをソニーたらしめた画期的製品は数多い。たとえば、トランジスタラジオ、テープレコーダー、トリニトロン方式のカラーテレビ、家庭用ビデオ、イメージセンサー、ウォークマン、プレイステーションなどなどが挙げられる。

これらが画期的であり、そして同時に独創的だと世の中に高く評価されたことによって、ソニーのブランドは築き上げられ確立してきた。とはいえ、本当の意味で果たしてそれらが「独創的」なのかという視点から冷静に考えると、決してそうは言い切れないのだ。
なぜなら、これらの製品のベースとなっている技術や発想は、ソニーの独創、あるいは発明では“ない”からだ。つまり、ソニーは根本的なところで生みの親ではなく、それらの製品の源泉は、概してアメリカにあったのだ。

例えば、トランジスタはアメリカのウエスタン・エレクトリックの発明であり、テープレコーダーは戦前日本にも存在したワイヤレコーダーがその原型、ビデオはテープレコーダー技術の発展形、イメージセンサー(CCD)はベル研究所の研究者3人が発明したものだった。いずれもソニーの独創ではない。ソニーが優れていたのは、そうした発明を消費者向けの製品に仕上げる豊かな発想と誰にも負けないそして最後まであきらめない開発力だった。