学生時代に三重県知事に言われたこと

学生時代に出会ったあるオトナの一言は、僕にとってキャリアの分かれ道でした。今でもよく思い出します。当時経済産業省の若手官僚だった、鈴木さん(現・三重県知事)と小さな飲み会でお話を聞かせていただいた時のことです。

鈴木さんは、どうせ仕事をするのならば、と前置きした上で、こうおっしゃいました。

自分がやらなきゃ誰がやる、今やらなきゃいつやるんだって仕事をしたい。

はっとさせられたことをよく覚えています。

写真=iStock.com/bee32

当時僕は、地域に戻ってG-netを事業として続けようかどうしようかと思い悩んでいました。この言葉はそんな僕の背中を押してくれたのです。多くの人が入社を望む広告代理店への就職もよいかもしれない(当時の僕は、大手広告代理店に就職とかをぼんやり考えていたりしました)。けれど、地域の中小企業の活性化や人材育成といった取り組みこそ、「自分がやらなきゃ誰がやる」という仕事。だからこそ、自身が取り組むべきではないか、と感じたのです。今から振り返れば、自分じゃなきゃ駄目だ……なんてとんだ勘違いだったな、と思いますが(苦笑)。

同時に、この言葉はこうもとらえられると思います。たしかに一見、自分以外の人でも同じように取り組める業務や役割は多いでしょう。でもどうせ働くなら「自分じゃなきゃ」「今じゃなきゃ」と思えるような仕事の仕方をしたいのだ、と。

「自分じゃなきゃできない仕事」を探すな

たとえば、ポスター貼り。以前とあるプロジェクトで街のあちらこちらにポスターを貼らせてもらおうとしたことがあります。スタッフは、一店舗ずつ飛び込んでお願いに回っていました。そんな仕事は一見誰にでもできそうだし、正直モチベーションも上がらない。そんな中でも、メンバーの加藤美奈さんはまるで違いました。「ポスター貼りという役割があるからこそ、これまで知らなかったお店に入ることができる。やり取りを通じて新たなつながりを作ることもできるんだ」と。単にポスター掲示のお願いだけでなく、日々のご商売や商店街についてお話を聞かせてもらい続けたのです。信頼関係を築き、新たな事業展開のヒントもそこから得られました。

大切なことは「自分じゃなきゃできない仕事」を探すのではなくて、目の前の仕事を、自分なりの努力と工夫で取り組むこと。その結果が、「やっぱり、この仕事は◯◯さんじゃなきゃ」と言われることにつながるのではないか、と思います。

学生と面談していると「自分じゃなきゃできない仕事をしたい」という声をよく耳にします。気持ちはよくわかります、僕もそうでした。

けれど実際は、ほとんどの仕事や役割に代わりはきっといます。あなたじゃなきゃいけない仕事であるわけじゃない。そもそも、他の誰もできないような特技や特殊技能を持っている人など、そうそういないでしょう。