【2】Novel:手応えを覚えるチャレンジがある
すぐれたゲームには必ず新たなステージ(レベル)、新たな敵、新たな功績が用意されている。人間の脳はたえず斬新さを求めるので、よくつくられたゲームは、プレーヤーがつねに目先の変わったものに刺激を受け、興味をそそられるように配慮している。
ゲームは、その課題によってプレーヤーを没頭させる――言い換えると、ミハイ・チクセントミハイがいうところの「フロー」状態を生みだすようにデザインされている。
フローとは、私たちが時間の経過も忘れるほど何かに没頭し、高揚感に満たされている状態をいう。面白いゲームは決して退屈せず、また逆に打ちのめされることもない。難しいが難しすぎない、易しいが易しすぎないという絶妙なバランスが保たれているからだ。しかもプレーヤーの能力が上がるにつれて、ゲームの難易度も上がっていくように設計されているので、私たちはつねにやりがいを感じ、ゲームにはまっていられるわけだ。マクゴニガルは次のように説明する。
チクセントミハイの研究によれば、フロー状態が最も確実に、効率よく生みだされるのは、自分が設定した目標、個人的に最適な障害、途切れないフィードバックが揃ったときで、これらはまさに、ゲームプレーの基本的構造だという。「ゲーム類は明らかにフロー状態の源泉であり、遊びこそは卓越したフロー体験である」と同氏は述べている。
▼「ひと手間」を強いられるほうが商品は売れる
人は、いつでも楽であることを求めるが、じつは本当の幸せをもたらすのは刺激である。私たちは楽をしようとしてあまり働かなくなり、おざなりに仕事をこなし、早々に退社する。これは燃え尽きの兆候だ。こんなときは何かを差し引くより、むしろ新たな課題を加えるほうが仕事への情熱を生むことがある。
ダン・アリエリーが、興味深い実例を紹介している。ピルズベリーという食品会社は1940年、インスタントのケーキミックスを発売したが、あまり売れなかった。同社は首をかしげた。手間がかからない楽な商品をつくったのに、主婦たちに受けない。やがて思い当たった。ケーキづくりは単なる骨折り仕事ではなく、家族への愛情表現だったのだ。そこで、卵を加えなければならないなど、ひと手間必要なケーキミックスを作ったところ、売り上げが跳ねあがったという。
というわけで、仕事を面白くするには、課題を加えること。仕事であれ何であれ、その行為に意味を持たせ、没頭するには、結局のところ私たちは自分の痕跡を残したいのだ。