30分経ったら、一切考えない

もちろん、先を急ぎすぎるとリスクは大きくなります。といって、コンペティターと肩を並べて走ろうと考えていては勝つことが難しくなります。

意識するのは、コンペティターより半歩先を行くこと。そのためにも、決断に時間をかけるより、実行に移すことが肝心なのです。決定した戦略を軌道修正したり、変更したりする柔軟性を持ち合わせていれば、新たに生まれる戦略は、間違いなく成功に近づくことになります。

ダイキン工業が空調事業のグローバルナンバーワン企業にまで成長できたのも、実行に次ぐ実行にあったと考えています。

決断には相当なパワーを要します。とくにリーダーと呼ばれるポジションでの決断は、部下や部署、さらには会社全体と責任の範囲が大きくなるほど重圧がかかってきます。私が心がけていることは、あまり考えすぎないようにすることです。具体的には、「悩むのは30分だけ」と決めています。そして、30分経ったら、そのことに関しては一切考えないようにしています。その代わり、その30分間は、そのことだけをとことん考えます。誤解を招かないように話しておきますが、30分間とは、最終決断をするときということです。

決断したら、スパッと頭を切り替えます。考えすぎると、なかなか実行に移せないからです。それに、考えないようにすると、心も楽になります。

超人的なメンタルタフネスに思われるかもしれませんが、もちろん若い頃から「30分間だけ悩む」ことができていたわけではありません。何度も何度も自分に言い聞かせながら習慣にしてきたことです。

1時間も2時間も悩み続けることもありました。入社当時などは、悩みすぎて、翌日無断欠勤したこともあります。「30分間だけ悩む」のは、何十年もかけて身につけた習慣でもあります。

決断力は、どんなポジションで仕事をしている人にも求められることです。そして今の時代は、そこにスピードも求められています。

大切なのは、頭で考えるより、体を動かすことを優先させることです。走りながら考えることを意識するだけで、スピード感を持って仕事ができるようになります。

井上礼之(いのうえ・のりゆき)
ダイキン工業会長
1935年、京都府生まれ。同志社大学経済学部卒業後、57年大阪金属工業(現ダイキン工業)入社。人事部長などを経て、79年取締役。常務、専務を経て、94年代表取締役社長、2002年より代表取締役会長兼CEO。14年より現職。
(構成=洗川俊一 撮影=澁谷高晴)
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