財務省も「弱い人」に汚い仕事を押し付ける組織
(2)競争も重要な要因だろう。過酷な受験競争を勝ち抜いて医師免許を手に入れたわけだから、上昇志向も競争意識も人一倍強い。とくに、大学病院に勤務して教授の椅子を狙っている医師は、ライバルに勝つためなら何でもする。
さらに、教授を怒らせたら飛ばされるのではないかという(3)恐怖もある。懲罰に近いような形の異動への恐怖を医師が抱くのは、かつては大学医局が人事を一手に握っていたことによる。とくに、関連病院を全国各地に持っていた大学医局では、教授を怒らせると、僻地の病院に飛ばされるのではないかという恐怖を多くの医局員が抱いていたものだ。
大学医局の影響力は、一昔前と比べると低下したとはいえ、大学病院に残って出世したければ、教授の意向を気にせずにはいられない。それがさまざまな不祥事の温床になっているともいえる。
▼どの仕事でも汚い仕事をさせられるリスクがある
この3つの要因は財務省の官僚にも当てはまる。財務省は、ブランド力のある組織というだけでなく、隔離された集団でもある。また、出世のための競争も、懲罰に近いような形の異動への恐怖も、医師の比ではないだろう。
財務省のように3つの要因がそろっている組織ほど、「汚い仕事」を押しつける上司がいるものだ。もっとも、必ずしも3つの要因がそろっていなくても、「汚い仕事」を押しつけられそうになることはある。
例えば、スーパーの鮮魚売り場で働いていた男性は、売れ残った魚の消費期限をもっと先に書き直して販売するように店長から指示されて、悩んだらしい。また、診療所で医療事務の仕事をしていた女性も、自己負担ゼロの生活保護の患者が、実際には来院していないのに、診察を受けたように見せかけて再診料を請求するように院長から指示されて、困ったという。
この2人の勤務先は、それほどブランド力があるわけでもないし、そんなに競争が激しいわけでもない。それでも、やはり現在の職場にいられなくなったらどうしようという恐怖ゆえに、葛藤にさいなまれる。とくに次の仕事が簡単に見つかりそうにない場合、恐怖は一層強くなるはずだ。
こういうことは、誰にでも起こりうる。「汚い仕事」を押しつけられそうになったら、どうすればいいのだろうか。