偉い人に忖度して、重要情報を「あえて報告しない」

書き換えまでいかなくても、あえて報告しないのも、「汚い仕事」の1つだろう。たとえば、薬の副作用をあえて報告しない医師がいる。

*写真はイメージです(写真=iStock.com/MOKUDEN_photos)

新薬が発売されてまもなく、重篤な副作用で患者が苦しんだり、場合によっては死亡したりすることがある。原因究明のための調査が行われ、その薬の治験の段階で重篤な副作用が出現していたにもかかわらず、医師がきちんと報告していなかった事実が判明する。

新薬の治験は、だいたい医学部の教授が製薬会社から依頼されて行う。教授は、大学病院や関連病院の医師に指示して、治験者になってくれる患者を集めさせ、新薬を投与させる。

新薬が認可されれば、莫大な利益を生むが、逆に認可されなければ、それまでの研究開発費は無駄になる。だから、製薬会社も、製薬会社から研究費を受け取っている教授も、重篤な副作用が出現しなければいいのにと願っている。

もちろん、教授が副作用を報告しないように直接指示することはまれだ。だが、製薬会社と教授の願望を忖度して、大学病院であれば准教授や講師、関連病院であれば部長が、部下の医師に「副作用を報告しないほうがいい」とそれとなく助言することはある。もしくは、治験を実際に担当した医師が、直属の上司さらには教授の願望を忖度して、あえて副作用を報告しないこともある。

▼「汚い仕事」を断りにくいという組織の共通点3

このように忖度が働くとか、「汚い仕事」を断りにくいという組織には、しばしば次の3つの要因が認められる。

(1)ブランド力
(2)競争

(3)恐怖

医学部の偏差値は他学部と比べて総じて高く、医師国家試験に合格しなければ、医師にはなれない。当然、ほとんどの医師は多かれ少なかれエリート意識を抱いている。とくに大学病院や名門病院に勤務する医師のエリート意識は、半端ではない。

こうした(1)ブランド力のある組織に所属することに自らの「レゾン・デートル(存在価値)」を感じている医師は、その組織に居続けるためなら、「汚い仕事」を部下に押しつけることも、場合によっては自分自身がそれに手を染めることもいとわない。