地方都市再生への道筋における3つのヒント

ただし、ここで明確にしなければならない点は、いくつもの注目すべき動きが見られるものの、釜石市における地方都市再生の試みが最終的な成果をあげるためには、克服すべき問題がまだまだ残されていることである。その最たるものとして、「それぞれに奮闘し、それぞれに成果をあげてきた」釜石市のキープレーヤーたちが、ネットワークの形成に関して、連携面で弱点をもっている点を指摘せざるをえない。

筆者は、東大社研が07年に釜石市で開催した「希望学釜石調査公開シンポジウム──釜石に希望はあるか」において、「釜石には希望がある。でも、もっとあるはずだ」と発言したことがある。「もっとあるはずだ」と言ったのは、釜石市で地域経済活性化に取り組むキープレーヤーが形成するネットワークには分断された個所があり、その結果、機会損失が生じていると感じたからである。このような分断が起こる理由は、皮肉なことに、キープレーヤーがあまりにも英雄的に行動し、それが、おのおの成果をあげているために、お互いがかかわり合う必然性が小さい点に求めることができる。

新日鉄釜石製鉄所の内と外、誘致企業と地場メーカー、小野食品と地元漁協、釜石市と岩手県釜石地方振興局、釜石市と周辺市町村など、ネットワークが十分につながっていない個所が接合されれば、釜石市でともった地方都市にとっての希望の灯は、さらに勢いを増すであろう。

釜石市で起こりつつある変化は、ネットワークの接合という点のほかにも、地方都市再生の道筋について、重要なヒントを与えてくれる。それは、

(1)インフラ整備による外需の呼び込み
(2)広域ブランドと結合した地域ブランドの確立
(3)若い世代の参画とリスクテーカーの登場、および両者の連動

などの点である。

もちろん、地方再生への道筋は、平坦なものではない。地域経済を活性化させるためには、正しい戦略をとり、適切な手順をふむことが求められる。

ここで重要な点は、釜石市には、「正しい戦略」や「適切な手順」につながる契機が、すでにいくつか存在することである。それらの契機が深化し、発展をとげ、高齢化・人口減・産業構造転換の三重苦に遭遇した町・釜石市が活気づいて再生を実現するにいたれば、同じく苦境に立たされている全国の小都市にとっての文字通りの「希望の灯」になることは、間違いないであろう。

我々は、釜石市で始まりつつある地方における希望への挑戦が、今後どのような展開をとげていくか、期待を込めて見守ることにしたい。

(平良 徹=図版作成)