南北統一など夢幻、本気で考えるのは無駄

北のGDPは佐賀県の総生産と同じ程度で、90年代の食糧危機「苦難の行軍」よりも経済は改善されているとされるが、夜の極東アジアの衛星写真を見てもわかるように、平壌以外の地域は真っ暗で、電力不足は依然解消されておらず、民間人の密貿易や中朝国境付近の動向はともかく、その全般的な経済の衰微は誰の目にも明らかである。

このような国が幾ら五輪融和ムードを醸成して、局地的な外交戦で勝利したとしても、北朝鮮主導の南北統一など夢幻だ。韓国人の多くも、それをわかっているからこそ、刹那の融和に目を細めるのであろう。韓国保守派の反北感情は日本人の想像以上に根深い。

平昌五輪がパラリンピックを含めて閉幕した後、つかのまの小康状態が訪れるが、南北関係はまたふとしたことで元に戻る。北はまたミサイル発射や核実験を行う。アメリカとしては、北朝鮮の山岳地帯や秘匿施設に隠されたミサイルを全て最初の奇襲攻撃で破壊し尽くす、という戦史に残る奇跡的大規模奇襲攻撃を成功させない限り、グアムやハワイ、在日米軍基地、在韓米軍基地への報復の可能性が残っているので、北攻撃をビル・クリントン時代以上に本格検討することはできない。

日本の周りには、分断国家が2カ所ある

ドナルド・トランプが想像以上に、排外的政策を実行できていないので、米中間選挙を経て20年の大統領選挙でトランプが再選されるかはわからない情勢だ。米国政治も保守・リベラルの間でシーソーのような振り子を繰り返す。小国・北朝鮮の運命は米国と中国によって決定されるから、金与正が韓国に来たことは巨視的には北朝鮮の最終勝利を意味しない。日本の報道や世論は、北の動向や韓国の反応に一喜一憂する嫌いがあるが、余り意味はない。

日本の周りには、分断国家が2カ所ある。台湾・大陸中国と、北朝鮮・韓国だ。しかし台北やソウルでも、かつての勇ましい反共国家スローガン、台湾の「大陸反攻」、韓国の「北進統一」などは見られない。若者は分断国家の行方より、スタバでコーヒーを飲み、SNSで「いいね」を押される数のほうがより重大だ。「分断国家」という概念は「いつか統一する」という前提の下に成り立っているが、本気で実現できると考えている人間は、台湾や韓国でもある種のオカルト界隈を除いて多くはない。

最後に、話題沸騰中の北朝鮮美女応援団。彼女たちからは「美」ではなく「狂気」しか感じない。しかし「狂気も突き詰めれば究極の美」という意見もある。悩ましい。(文中敬称略)

古谷経衡(ふるや・つねひら)
文筆家
1982年、札幌市生まれ。日本ペンクラブ正会員。立命館大卒。近著に『日本を蝕む「極論」の正体』。
 
(写真=時事通信フォト)
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