平昌オリンピックが閉幕し、同パラリンピックが続く。韓国と北朝鮮は女子アイスホッケーについて「メダル圏内にいない」などとし、選手の意向と関係なく合同チームを結成した。北朝鮮は金正恩氏の妹・金与正氏を韓国に送り込み、「国賓化」にも成功している。文筆家・古谷経衡氏は「平昌五輪は国際社会にとって笑えない展開になった」と分析する――。

女子アイスホッケー南北合同チームを激励する金与正氏(上段一番右)と文在寅氏(上段一番左)。(時事通信フォト=写真)

「実に馬鹿らしい」政治の祭典となった五輪

驚くほどこの五輪は国内的にも国外的にも「政治五輪」になってしまった。「平和の祭典」ならぬ「政治の祭典」とはまさにこのことだ。国内的には、平昌五輪開会式への安倍晋三総理訪韓がまず第一の政治論争になった。韓国が文在寅政権に交代し、事実上慰安婦合意を骨抜きにしたことで、日本国内の左右が総理の訪韓を巡って対立した。

右派は「訪韓反対」、左派は「訪韓支持」で分裂した。国内メディアが「安倍総理が訪韓しない方針」と報道したときは右派が驚喜し、次に「安倍総理が訪韓の方針」と報道したときは左派が安堵し右派が失望した。今思えばよくある官邸のアドバルーン(観測気球)だったのだろう。実際、五輪開催中、隣国の総理が訪問しないとなると、訪問しない側が国際的にネガティブに受け止められるのが常識だ。よって総理の訪韓は既定方針だったのだろう。

大会が開催されると、ネットでは連日の五輪報道への違和感があふれた。まず噴出したのが「平昌をピョンチャンと呼ぶな!」という無理筋のキャンペーン。韓国の地名を現地読みするのが気にくわないという。保守系言論人もこれに同調し、現在でもわざわざ「ヒラマサ」とツイッターに投稿している人物もいる。ヒラマサでは「肉のハナマサ」と混同する。平昌(ピョンチャン)でいい。全く無意味な難癖だ。

左右が沸騰した安倍総理の羽生選手への激励

羽生結弦選手が金メダルをとると、流石に祝賀ムードで刹那一色になったが、国内ではまたも論争に火が付いた。「あくまで羽生選手個人がスゴイのであって、日本人がスゴイのではない」という意見に、右派が喰い付いたのだ。個人的には正直どっちでもいい。羽生選手は日本人選手であり、国際大会への出場においては母国の属性を背負っていると考えられるのが通念で、羽生選手も日本人もスゴイと思うのが自然だし、社会通念上の常識ではそんな問い自体が問題にもならぬ愚問であるが、過熱した日本国内の左右対立はこんな無意味なところで火が付く有り様だ。

次に左右が沸騰したのは安倍総理の羽生選手への激励である。羽生選手が金メダルを取ると、すぐさま安倍総理が電話で祝意を伝えたというものだ。各紙で大きなニュースになったが、これを以て早速、日本の左派が「安倍総理が羽生選手の金メダル獲得を政治利用した」などと紛糾し始めたのである。

もう忘れたかもしれないが、1999年、時の小渕恵三総理は作家・評論家・アーティスト果てはテレビ番組の生放送にまで、予告なしに自ら電話をかけまくった。これは「ブッチホン」と呼ばれ、瞬く間に99年の流行語になった。小渕は翌年に急逝するが、当時は「総理が民間人に電話をかけること」が政治問題として左右対立を招いたことはなかった。ブッチホンから約20年。日本はこうも左右の極論に分裂した「思想的内戦」の時代を迎えているかのようだ。実に馬鹿らしい。