派遣社員の処遇を向上する狙いが、完全に逆効果
派遣切りの原因になるのはそれだけではない。
2013年4月に施行された改正労働契約法は、契約更新による通算5年超の有期契約社員が自動的に無期雇用に転換できる権利を付与した。そして5年後の2018年4月から解雇しにくい無期契約に切り替わることになる。
賃金などの労働条件は直前の有期契約のときと同じでもよく、既存の正社員に合わせる必要はないが、有期契約の派遣社員が派遣元での無期契約への転換を希望する人が増えると、さらに経営を圧迫することになる。
そして「派遣切り」が増えるもうひとつの原因が、安倍政権が正規と非正規の格差是正を目的に打ち出した「同一労働同一賃金原則」をベースとする労働者派遣法の改正案だ。法案審議が今年の通常国会で審議され、19年4月の施行を予定している。
この改正案の最大の柱は、非正規社員が正社員との間に不合理な待遇差がある場合にその非正規社員が裁判に訴えやすくすることにある。新たに(1)派遣先の正社員との均等・均衡待遇とする、(2)派遣元の正社員との均等・均衡待遇とする――の2つのいずれかを選択することになった。
(2)が設けられたのは、派遣先が大企業から中小企業に変われば賃金水準が下がることなどが理由となっている。ちなみに均等待遇とは仕事の内容が同じであれば同じに待遇にする、均衡待遇とは仕事の内容が違う場合は、その違いに応じてバランスをとる、という意味だ。たとえばすでに政府が示している「同一労働同一賃金ガイドライン案」では、通勤手当は派遣を含む有期雇用労働者も「無期雇用フルタイム労働者と同一の支給をしなければならない」としている。
▼「安倍政権」は派遣切りが増加する要因を作った
有期の登録型派遣は派遣期間が終了すれば雇用契約が終了したが、一連の制度改革が実現すれば派遣社員は無期雇用(正社員を含む)を選択できる。とぎれることなく派遣で働けることになり雇用も安定する。さらに賃金などの処遇も向上することになる。これはこれで結構なことなのだが、前述したように派遣業界は中小の事業者が圧倒的に多く、実現は容易ではない。
「同一労働同一賃金が制度化されると、派遣先は自社の社員との均等・均衡を図るために賃金情報を派遣元に開示しなくてはならないとし、派遣元に対して待遇改善の原資を確保するための派遣料金を上げることができる配慮義務も課されています。しかし、派遣先から『うちには派遣社員と同一の職種はない』と拒否されるかもしれません」(前出の役員)