これからアニメ業界に訪れるゴールドラッシュ

『この世界の片隅に』を観て、頭のいいクリエイターは、これから何をやればいいのか、どっちの方向に向かって行けばいいか、わかってしまったはずです。

岡田斗司夫『大人の教養として知りたい すごすぎる日本のアニメ』(KADOKAWA)

宮崎駿に影響を受けたクリエイターはたくさんいますが、その方法論は天才による個人技が要求されます。もちろん、『この世界の片隅に』は本当にすごい作品で、片渕須直監督もある種の天才です。けれども、宮崎駿や庵野秀明、押井守といったタイプの天才ではありません。『この世界の片隅に』は1人の天才の個人技というより、1つ1つの仕事をきちんと積みあげてできている。

宮崎駿はいわば、マリオみたいなものでしょう。高いところにあるコインをものすごいジャンプ力を使って、いきなりポーンと取ってしまう。でも、片淵監督は1番下から足場を丁寧に組んで作っているのがはっきり見えます。

そうやって真面目にアニメを作り、クラウドファンディングなどを活用して資金調達すれば、世界に通じる傑作ができることを『この世界の片隅に』はしっかり証明しました。

ヒットするほど監督に興行収入が配分される仕組み

さらに、『この世界の片隅に』の真木プロデューサーによれば、この作品はヒットすればするほど監督にも興行収入の一部が配分される契約になっているそうです。世界的に見たら当たり前なんですが、こういう仕組みはこれまで日本ではなかなか実現できませんでした。

日本のアニメ業界は「神様」手塚治虫があまりにも安価な制作費で『鉄腕アトム』を始めたことから、作り手になかなかお金が回らない歪(いびつ)な構造になっていたんですね。宮崎駿はこうした状況に危機感を抱き、スタジオジブリではアニメーターらを正社員として採用していたわけですが、自らの引退とともに制作部門を解体することになってしまいました。

けれど、『この世界の片隅に』や『君の名は。』の成功によって、これからは数人しかいない小さなアニメスタジオでも、世界のエージェントと交渉して大きな成功報酬が得られる可能性が出てきました。

『この世界の片隅に』というアンサーは、アニメ業界に未曾有のゴールドラッシュをもたらす、ビジネスモデルでも画期的な作品になったのです。

岡田斗司夫(おかだ・としお)
社会評論家
1958年大阪府生まれ。1984年にアニメ制作会社ガイナックスの創業社長を務めたあと、東京大学非常勤講師に就任、作家・評論家活動を始める。立教大学や米マサチューセッツ工科大学講師、大阪芸術大学客員教授などを歴任。レコーディング・ダイエットを提唱した『いつまでもデブと思うなよ』(新潮新書)が50万部を超えるベストセラーに。その他、多岐にわたる著作の累計売り上げは250万部を超える。
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