希望だった産婦人科医にはなれなかったが……

現在、福島県で産婦人科の専門医になるためには、日本産科婦人科学会の会員となり、基幹病院である福島県立医大に所属しなければならない。南相馬で研修を受けるため、福島県立医大の産婦人科教授に相談したところ、「産科医が一人しかいない病院に専攻医を派遣することはない」と断言されてしまった。

なぜ大学病院でなければ専攻医が取得できないのか。南相馬市立病院の年間分娩数は約230件。産科の常勤医は一人だけだ。一方、福島県立医科大学は常勤医18人に対し、年間分娩数は499件(2015年度)。常勤医一人当たりの分娩数は24件である。南相馬で研修するほうが、経験を積むうえでも、地域医療に貢献するうえでも、メリットが大きいはずだ。

産婦人科医になるために南相馬を離れるか、産婦人科医ではなく医師として南相馬に残るのか。私は後者を選んだ。これまでの貴重な体験やチャンスを思えば、南相馬を離れることは考えられなかった。

市長からクビを宣告されてもくじけない

2年の研修を終えたあとは、そのまま南相馬市立総合病院で勤務の予定だった。院長の内諾もあったのだが、病院を運営する南相馬市の桜井勝延市長から直接「クビ」を宣告されてしまった。私は前述のような福島県の産科体制や専攻医取得の問題点について、昨年2月、医療情報専門サイトm3.comに記事を寄稿した。その内容が南相馬に医師を派遣している福島医大を批判するもので、「あなたのような医師は雇用できない」というのだ。

それでも私の希望は南相馬での医療に携わることだった。このため福島県立医大の竹之下誠一理事長に相談したところ、「まったく問題ない」とのお墨付きをいただけ、昨年4月からは非常勤として南相馬市立総合病院で勤務できることになった。

私の現在の勤務先は、南相馬市の大町病院である。南相馬には一般病院は4つしかない。昨年8月末から常勤の内科医がいなくなってしまうと知り、南相馬の医療を守るため、自ら手を挙げて9月から大町病院に飛び込んだ。

南相馬にいたいと思うのは、関西からこの地に飛び込んだからこそ、今の自分があると考えているからだ。たくさんのチャンスをいただき、たくさんの経験をさせていただき、たくさん応援いただいた。その恩返しをするため、これからも南相馬という地で精進していきたいと思う。

山本佳奈(やまもと・かな)
青空会大町病院 内科医
1989年、滋賀県大津市生まれ。私立四天王寺高校卒業。2015年3月滋賀医科大学卒業。同年4月より、南相馬市立総合病院初期研修医。研修終了後、同院に残るも、17年9月より南相馬市内の大町病院に内科医として出向中。女性の総合医を目指し、日々研鑽している。自身の貧血体験から、大学時代より貧血の研究に取り組む。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)がある
【関連記事】
医師不足の原因は「開業医の優遇」にある
バイトより安月給"常勤医不足"に悩む僻地
大都市で75歳以上が大幅増! 高齢者向け病床が不足する
地域包括ケア期待で"医療モール"が再燃
日本で"インフルワクチン"が不足するワケ