驚くべき「強い処罰欲求」貴乃花親方を精神分析する

まず、愛弟子の貴ノ岩を殴った日馬富士への怒り。古代ローマの哲学者セネカは、怒りとは「自分が不正に害されたとみなす相手を罰することへの欲望である」(「怒りについて」)と述べている。貴乃花親方は愛弟子が殴られたことによって「自分が不正に害された」と感じた可能性が高い。

*貴乃花親方(写真=アフロ)

それだけ、貴ノ岩との一体感が強いわけだが、これは貴ノ岩が貴乃花親方にとって特別な存在だからだろう。部屋を作ったときに「外国人力士は入れない」方針だった貴乃花親方が、その才能にほれ込んで弟子にしたのが貴ノ岩なのだから、思い入れは相当強いはずだ。

その大切な愛弟子を殴った日馬富士に罰を与えたかったからこそ、貴乃花親方は鳥取県警に被害届を出したと考えられる。これは九州場所の部屋の千秋楽パーティーで「正当に裁きをしていただかなきゃいけない」と語ったことにも表れている。

処罰欲求の強さは、この事件を捜査した鳥取県警も感じたようだ。

12月4日、鳥取県警は、日馬富士を傷害容疑で書類送検すると同時に検察に起訴を求める「厳重処分」の意見を付ける方針を固めたと報じられた。こうした判断を下した背景には、貴ノ岩の処罰感情が強いことがあるという。

▼次の標的は日馬富士以外の「モンゴル人力士」

貴ノ岩と貴乃花親方の処罰欲求が日馬富士の引退によって満たされたのなら、親方はその後、協会からの調査への協力要請をすんなり受け入れたのではないか。しかし、そうはしなかった。処罰欲求がじゅうぶんに満たされたわけではないからだと推測される。裏返せば、それだけ処罰欲求が強いともいえる。

これは、貴乃花親方の怒りの矛先が日馬富士だけに向けられているわけではないためだろう。暴行現場には横綱の白鵬や鶴竜などのモンゴル人力士が同席していたにもかかわらず、貴ノ岩が頭から出血するまで、日馬富士を制止しなかったと報じられている。だから、その場に居合わせたモンゴル人力士に対しても、貴乃花親方は怒っているはずだ。

もっとも、貴乃花親方はこの事件の前からモンゴル人力士に批判的だったようだ。優勝40回という前人未到の偉業を達成した白鵬さえ認めていないふしがあり、「勝負後のダメ押し」「立ち合いの張り手」「エルボーばりのかち上げ」などに対して以前から厳しいまなざしを向けていたらしい。もしかしたら、“神事”としての相撲を汚されたように感じているのかもしれない。