横綱の日馬富士が平幕の貴ノ岩に暴行した問題で、メディア報道が過熱している。この問題をめぐっては周辺の人物がさまざまな証言をしているが、日馬富士も、貴ノ岩も、貴ノ岩の師匠である貴乃花親方も、まだハッキリと説明していない。なぜ番記者たちは、彼らを問い質さないのか――。

日本にはスポーツジャーナリズムはない

日本にはスポーツジャーナリズムはない。日馬富士暴行騒動を見ていて、つくづくそう思う。この騒動は11月14日のスポニチのスクープで始まった。

11月20日、大相撲九州場所9日目が行われる福岡国際センターに到着した貴乃花親方(写真=時事通信フォト)

九州場所が開幕してからの横綱の大不祥事だから、一般紙もすぐに後追いした。貴乃花親方に近いといわれるスポニチが、この時期に書いたのは、当然ながら貴乃花側の思惑が裏にあると見るのが、当然であろう。

その思惑は「ビール瓶で殴打」という刺激的なタイトルに見て取れる。酒席で酔っぱらった横綱が、モンゴルの後輩である関取を殴ったでは、インパクトは弱い。

しかしビール瓶で殴ったとなれば、読者が受け取る印象は大きく違ってくる。もし、ビールが入ったままの瓶で殴れば、ケガどころか死ぬこともあり得る。この報道にすぐ動いたのが、同じ席にいた白鵬だった。彼はわざわざ報道陣の前で「ビール瓶では殴っていない」とこれを否定した。

なぜケガの具合について説明しないのか

真実はこれを書いている時点(11月24日)ではいまだ藪の中である。こういう場合、被害者である貴ノ岩か、貴乃花親方が、鳥取県警に診断書を付けて告訴した理由、貴ノ岩のケガの具合などについて、会見をするべきであろう。

また、記者クラブ側がそれを要求するのが当然なのに、スポーツ紙もテレビも、日馬富士や貴乃花親方を取り巻いているだけで、ワイドショーなどはその報道陣の右往左往を面白がって映しているだけである。

なぜ、これだけ大きくなった刑事事件を、貴乃花親方や八角理事長に「あなたたちはわれわれの疑問に答える義務がある」といえないのだろう。菅官房長官を怯ませた東京新聞の望月衣塑子記者のようなジャーナリストが、相撲や野球の世界では出てこないからであろう。

もはや、元相撲部出身の記者を送り込むのではなく、しっかりジャーナリズムの何たるかを心得た人間を、送り込むべきである。これだけモンゴル出身の力士が多くなってきたのだから、言葉のできる記者を養成すべきだが、しているのだろうか。